江戸川で死ぬ!
ココノツ
第1話
「私江戸川で死にます!」
春、新学期。
県立野々宮高等学校1年A組を惑わせたのは、多宝かすみだった。
自分の名前の後、趣味や好きな食べ物を語る前に、彼女は自分の死因を話した。
周りの学生たちが分かりやすく目線を向けたり、隣の人と目を合わせてたりしてクラスがザワつく。
高校生と言うのはどうも曖昧で、大人で子供だ。
そんな曖昧な高校生を、担任の木藤大輝は嫌っていた。
嫌っているのに、どうして高校教師をやっているのかは木藤本人にも分かっていない。
覚えていなかった。
ただ、気づいたら木藤は教卓に立っていたのだ。
けれども教師をやめようとは思わなかった。
何故かは分からない。
木藤は自分のことがよく分からなかった。
そんな木藤が初めて個人的に呼び出した生徒は、正しく多宝かすみだった。
名前もない空き教室。
もう物置同然の少し狭い部屋で、二人は向かい合っていた。
「…なんであんな自己紹介したの?」
木藤は恐る恐るかすみに声をかける。
声をかけるまで、かすみはずっと部屋中を凝視していた。
そんなかすみも声がかかると、しっかり木藤に目を向け口を開いた。
「本当の事だから」
口元は笑っているけれども、目はただただ自分を見つめるだけの表情に木藤は恐怖心を抱いた。
その沈黙の間、かすみは木藤から目を離さなかった。
先に目を離したのも話し出したのも木藤だった。
「未来の事だろう?何故分かるのさ。」
木藤がこの疑問を口に出すまで数分かかったのは、先程の恐怖心が拭えきれていないからだった。
しかしそんなのはお構い無しと、木藤が口に出すまで数分かかった質問をかすみは躊躇なく答える。
「夢で見たから」
「はっ…?」
木藤の声は比較的他男性よりも高い傾向にあると言える声だろう。
しかし、あまりの返答に木藤が漏らした細い声は、女声と言っても誤魔化しが効く声だった。
とても、情けない声だった。
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