第2話 扉を叩くのは誰ですか?




――『まゆちゃん、まゆちゃん、ここを開けて? 扉を開けて?』



この声は懐かしいママの声だ。私はこの多目的トイレの床で目を覚ました。



どれくらい時間が経ったのか変わらない。

振り向くと苦しそうな息遣いをするパパとその横にゆう子お姉さんいた。


「ママ! ママがいる!」

「声出すんじゃないわよ! アイツずっとうろうろしているんだから」

「……でも」



――『まゆちゃん、まゆちゃん、ここを開けて? 扉を開けて?』



「ママの声だよ、ママがいるんだ」

「はあ? あんたのママがなんでこんなところに来るのよ? 開けたらあの殺人犯に殺されるわ!」

「そうだ、まゆ、開けるな。もうすぐ警察がくる。あの殺人犯の罠だ。まだ殺人犯はこの場所をうろついている。警察が捕まえてくれ るまでここに閉じこもっていよう」

「そうよ 第一あんたのママがこんなところに来るわけないじゃん」



――『まゆちゃん、まゆちゃん、ここを開けて? 扉を開けて?』



 どうしてママが私たちが隠れている場所を知ったのかは分からないけれどママに会いたかった。

 パパもゆう子お姉さんも怖いし嫌いだ。



 私は鍵を外してトイレの外に飛び出した。




***



 目が覚めた私は病院のベッドの中にいた。そしてベッドの傍らにはママの姿があった。



「ママ?」

「まゆちゃんが目を覚ましたわ!」



 ママが大きな声で叫ぶと直ぐにお医者さんと看護師さんがやってきた。



「まゆちゃんは1週間も昏睡状態が続いていて、ずっとお母さんがまゆちゃんの名前を呼び続けていたんだよ」

 


 お医者さんはそう説明してくれた。

 

 

 私はショッピングセンターで無差別テロ事件に遇い、多目的用トイレの中で意識不明の状態で発見されたらしい。犯人はもう逮捕されてたけれど、10人殺害され、負傷者は20人以上にのぼるらしい。

 犯人の男は誰でもいいからたくさん人を殺して死刑になりたいと言っているという。



「パパとゆう子お姉さんは?」

「パパもゆう子さんも出血が酷く、トイレに籠った後すぐに死亡してしまったって聞いているわ」

「パパは大怪我していたけど、ゆう子お姉さんは怪我してなかったと思うけど?」

「二人とも出血多量で死んだって聞いたわ」



「でも、――まゆちゃんが帰ってきてよかった」



 ママはそう言って私を抱きしめた。


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今際の閉ぢめ 山野小雪 @touri2005

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