今際の閉ぢめ

山野小雪

第1話 殺人鬼と遭遇

 

 私の名前はまゆ。小学2年生。

 悲しいことにパパとママは1年前に離婚した。私はパパの方に引き取られた。離婚理由は分からないけれど、家族が壊れてかなりショックを受けた。

 でもママとは1か月に1回面会しているし今でもママのことが大好きだ。

 

 そして最近パパには新しい恋人ができたらしい。



 ある晴れた日曜日の昼のこと。パパがスマホをの通話を終えたとたん、



「今からゆう子お姉さんと3人でお買い物に行こうか」

「えっ、突然じゃん?」

「ゆう子お姉さんがまゆに会いたいんだって」



 ゆう子お姉さんとはパパの新しい恋人。同じ会社の人だという。会うたびに私に色々プレゼントをくれる。正直あまり好きではないけれど、パパが嬉しそうにするので行くことにした。



 休日だけあってショッピングセンターはお客さんで賑わっていた。ゆう子お姉さんは私の手を握り一緒に歩く。



 「まゆちゃん、迷子になったら大変だよ」

 「大丈夫だよ」

 「まゆちゃんみたい子とずっと一緒にいたいなあ」



 ちらりとパパの顔を見ると嬉しそうな顔をしている。パパも再婚したいにちがいない。

 でも私のママは前の「ママ」だけだ。


 

――と、その時。


  

 背後の人ごみの方から叫び声が聞こえた。



 ――『逃げろ!』

 ――『助けて!』

 ――『殺される!』

 


 後ろを振り向くと血まみれの人々が何人も床に倒れていた。その後ろにナイフを持った大きな男の人が何やら訳のわからない事を叫びながら、周囲の通行人を次々にナイフ刺し始めた。


 周りの人々は悲鳴をあげて逃げまどい、私は押されて床に転んでしまった。男の人は奇声を上げながら私に向かって一直線に突っ込んできた。



「おい、やめろ!」

「いや、やめて!」


ゆう子お姉さんの悲鳴が上がった。パパは私を抱え起こすと、男ともみ合った。



「うわっ!」



 今度はパパの悲鳴が聞こえた。もう怖くて私は全く動けなかった。床にうつ伏せのままだ。

 しかし次の瞬間、体が宙に浮いた。パパは私を抱え上げ全力で走りだしたのだ。

 

 

 そして到着したのは、多目的用トイレ。

 個室に3人で入り、パパは施錠したとたんトイレの床に座り込んだ。



 その時初めて気が付いた。

 パパのシャツのおなかの部分が真っ赤に染まっている。パパは刺されたのだ。

 恐怖で泣きじゃくる私に、大丈夫だ、答えるがパパの息は荒い。ゆう子お姉さんもワンピースが血まみれになっている。



 施錠した扉の向こう側では男の奇声と悲鳴が飛び交っている。私は震えが

止まらない。



「現実とは思えないんだけど! あんな殺人鬼みたいな奴がいるなんて!」

「無差別テロか? まゆは怪我してないよな? とにかく警察に電話してくれ」

「ちょっと出血がひどいわ すぐに救急車を」

「それより警察が先だ!」

「あっ、うん」 


 ゆう子お姉さんがスマホをで通報しようとしたした時――。

 

 

――ガンガンガン! ガンガンガン!!


 突如、扉が叩かれた。


「ひいぃ!」


 床に尻もちをついたゆう子お姉さんが小さな悲鳴を上げた。扉が外側から大きな力で揺すられてガタガタと揺れ続ける。



――ガンガンガン! ガンガンガン!!



 あの男が扉の向こうに居るかと思ったら正気ではもういられなかった。今度こそ殺される。


 恐怖でもう声が抑えられなくて私は大声で泣き叫んでしまった。



「ちょっとまゆちゃん、静かにして!」

「……で、でも」

「うるさいって言ってるでしょう!」



 見たこともない怖い表情のゆう子お姉さんがこちらを睨んでいた。泣き止まない私の口をふさごうと手で抑えつけてきた。息ができないくらい苦しかった。



――私の記憶はここで終わった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る