魔法ブクロの中のヒト〜ポンコツ魔法使いリリスと、やたらビッグマウスな妖精の物語〜
小林一咲
第1話 最強妖精、爆誕?
見習い魔法使いの私、リリス。人並みに努力はしているつもりなんだけど、魔法学校の中では「三度の飯より爆発を起こすポンコツ」として、すっかり定着してしまった。
「次に魔法失敗したら、退学じゃからな!」
白髪の師匠に最後通告を食らったその日、私は運命の出会いを果たしたのだ。
「これは……魔法ブクロ?」
それは小汚い革製の袋で、口の部分には怪しい銀の紋章が刻まれている。ぼろぼろの紙切れにはこんなことが書いてあった。
『持ち主を最強に導く。だが、袋の中を覗いてはならない』
「うっさんくさいなー……でも、私に選択肢はないし!」
最強になれるなら儲けもんだ。そう思って、私はその魔法ブクロを手に取った。そして――軽い気持ちで蓋を開けてしまった。
◇◇◇◇◇
「おおおおおっ!? ようやく出られたああああ!!!」
……何か出た。
いや、何かっていうか、手のひらサイズの妖精? 金髪に小さな羽根、でも声は渋いオッサンそのものだった。
「お前が新しい主か? まあいい。俺はこの魔法ブクロの中では最強の存在、名をブリュンという!」
「…………は?」
「感謝しろ、ポンコツ! これでお前も最強だ!」
なんで知ってんの、私がポンコツってことを。というか「中では最強」ってどういうこと? そんな疑問を口にする間もなく、ブリュンは得意げに胸を張る。
「いいか、外じゃただの袋だが――」
「外じゃ?」
「まっ、まあいい! とにかく俺に任せておけば、“中”ではどんな魔法も敵も瞬殺だ!」
「中……?」
あたふたする私を無視して、ブリュンはブクロの口を開けると、いきなり私の腕を引っ張った。
「いくぞ! 魔法ブクロの世界へ!」
「ちょ、ちょっと待っ――ぎゃああああ!!」
視界がぐにゃりと歪んだかと思うと、次の瞬間――私の周りには、信じられない光景が広がっていた。
◇◇◇◇◇
そこは広大な空と大地が広がる異空間だった。草原に湖、遠くには山脈まである。まるで小さな世界そのものだ。
「な、なにここ……?」
「どうだ、驚いたか!」
振り返ると、妖精のブリュンが仁王立ちしている。背後には光の渦が渦巻き、風が彼を中心に吹き荒れていた。
「これが魔法ブクロの中の世界。そして俺の力だ!」
彼が腕を振ると、目の前の山が一瞬で宙に浮かぶ。さらに湖から水が巻き上がり、光の柱に変わる。
「う、嘘でしょ……これ、本当に中の世界?」
「そうだ。俺はこの世界でこそ最強の管理者! 魔法も何もかも自由自在!」
……とんでもないものを手に入れてしまったかもしれない。
「これなら……私でも最強になれるかも!」
ようやく光が見えた気がして、私は笑みを浮かべた。が、次の瞬間――。
◇◇◇◇◇
「リリス! 大変だ! 街に魔物が出たぞ!」
翌日、いつもの村が大騒ぎになっていた。
「やばい、師匠に追い出されるどころか、村ごと終わっちゃう!」
私は慌てて魔法ブクロを掴んだ。
「ブリュン! 助けて!」
「任せろ!」
ブリュンがブクロの外に飛び出し、颯爽と空中で拳を振り上げた――
「うおおおおお! ……ん……あれ?」
ヒュルルルッ
「ああっ!? 飛ばされるぅ!」
軽い風に煽られて、ブリュンはあっさりと私の足元に転がった。
「え、ちょっと、どういうこと!? ブリュン、弱っ!」
「……外では、こんなもんだ……」
地面にうずくまる彼を見下ろす私。さっきまでのドヤ顔が嘘みたいだ。
「最強じゃなかったの?」
「中ではな!」
「使えねぇ……!」
「誰が使えねぇだ! お前が無能だからこうなるんだろ!」
こっちのセリフだよ!
◇◇◇◇◇
「くっ、どうする、どうすんの……!」
魔物がこちらに迫る中、ブリュンが私の袖を引っ張った。
「リリス、ブクロを開けろ!」
「は? どういうこと?」
「いいから開けろ! 中なら俺は無敵だ!」
言われるがまま、私は魔法ブクロの口を開けた。そして――
ズオォォォォンッ!
魔物が光に飲み込まれ、気づけば――ブリュンが中の世界で仁王立ちしていた。
「お前の居場所はここじゃねぇ!」
山が浮き、水が渦を巻き、ブリュンの力が炸裂する。魔物は一瞬で塵となって消えた。
◇◇◇◇◇
事件が収まった後、私は魔法ブクロを抱えながら呟く。
「ねぇ、外でも強くなれないの?」
「俺の力は中でこそ発揮されるんだ! 文句あるか?」
肩に乗るブリュンが、どこか偉そうにふんぞり返る。
「はぁ……本当に頼りになるのか、ならないのか……」
「任せろ! 中では俺は最強だ!」
「外でも頑張ってよ……」
こうして、魔法ブクロと最強(?)妖精ブリュンとの旅が幕を開けたのだった――。
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『凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜』
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