第3話 魔法適性
「ローラがお世話になったみたいなのに殺気を向けてすまなかった」
殺されかけたにも関わらず、ローラの父は頭は下げてはいるが、言葉は未だに上からだった。ただノブナガは、力があっても立場のない自分相手に下手に出るのは外聞が悪いだろうと理解があったため、特に気にすることはない。
彼は室町幕府の最後の将軍義昭が同じように力がないのにも関わらず、ノブナガに対して高圧的な態度を繰り返したが、ノブナガが怒ることはなく、義昭が信長包囲網を行うまでは将軍として最低限敬っていた。彼は敵対しない限り、権威には一定の尊敬を持つ人間だ。
「気にしてはおらぬ。……次同じことをすれば許さないがな」
「そうか、本当にすまなかったな。……自己紹介がまだだったな。私はローレヌ・ガーランドと言って、ガーランド商会の商会長だ」
「うむ、ワシはノブナガじゃ」
「ではノブナガは今後どうするつもりだ?」
「冒険者になるつもりじゃ」
冒険者とは、この世界に存在する魔物の討伐を目的に作られた組織、冒険者組合に所属する人間のことを指し、職にあぶれたものが多く集まっていることから、荒くれ者が多いことでも知られている。
「そうか……なら魔法の適性を調べる必要があるが、調べたことはあるか?」
この世界には前世には存在しなかった魔素という目に見えない物が、空気中や生物の身体の中に存在している。魔素を利用することで魔法という奇跡に近い現象を起こすことができる。しかし適性のある魔法しか使うことができないため、魔法の使用がほぼ必須である冒険者になるためには、魔法適性を調べることが義務付けられている。ただ、一般家庭であれば子供のころに格安で受けることができるため、この制度は身分がはっきりしていないスラムの人間を弾くために存在していると言っても過言ではない。
「ない」
「ウチに簡易検査機が入荷しているから使うと良い」
「……ありがたいが、借りは作らない主義なんじゃ」
「娘を助けてもらったお礼だ。気にせず使ってくれ」
ローレヌとしては、商人として義理は通すのが大切だという考えをしている。しかし借りを作りっぱなしというのは怖いため、借りを返せる機会が早々にやってきたのなら返してしまえと思っていた。
これは二人にとってWin-Winの取引だった。そのことをすぐに理解したノブナガは、ここで断ってもっと別のことをローレヌにやらせようとも考えはしたが、せっかく良好な関係値を崩してまでやらせることが思いつかなかった。そのため簡易検査機を使用することにした。
「おさらいしておきますが、魔法の属性は火、水、土、風、光、闇の六つです。この属性には相性があって、水は火に強く、風は水に強く、土は風に強く、火は土に強くなります。そして光は闇に強いが闇は光に強いといった矛盾の相性になっています」
一人の世界から復帰したローラが改めて魔法について説明をしてくれた。しかしノブナガは街までの道中で教わったことは完全に覚えていたため、聞いたふりをしてローラの話はスルーしていた。
「分かっておる。それでこの簡易検査機とやらは、どうやって使うのだ」
「ここに血を一滴垂らせば、適正に応じた色に光る」
ノブナガは簡易検査機についている針で指先を傷付けた。そのまま流れ出る血を簡易検査機へと垂らした。すると簡易検査機は青く光り輝いた。
「ローラと同じで水属性か」
簡易検査機から発せられている青色の光が弱くなっていく。しかし完全に光が消える前に赤色へと変化し、また光り輝く。
「ほう、ダブルとは有望みたいだ」
また弱くなるが、完全に消えることは無い。次は赤色から緑色へと変化する。
「トリプルだと!?」
ローレヌが驚きの声を上げているが、ノブナガにとっては何がすごいのかが分からないため、簡易検査機の光の変化に集中している。
そして光は緑色から茶色へと変化する。それに対してローレヌは驚きすぎて声も出ていなかった。
まだ光が消えることはなく、白い光を放ち、最後に黒い光を放った。そして6色の光を放ち役目を終えた簡易検査機は二度と光を放つことはなくなった。
「ま、まさかセクタプルだと……」
この世界における魔法属性の適性数は平均的に1つだ。2つは珍しく、3つあれば国に仕えられる才能があり、4つあれば英雄と呼ばれるような才能があると言われている。それが6つともなれば、神話クラスでしか確認されていない才覚になる。
「ワシは才能があるようじゃな」
「才能があるなんてレベルじゃない!! その気になれば世界を取れるぞ!!」
「……人の上に立つのはもう懲り懲りだ。ワシは自由に生きられればそれでよい」
「やっぱりノブナガ様はすごいです」
やはりローラの感覚は少しズレていた。
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