第2話 ガーランド商会
「あの化け物はオークと呼ばれておるのか……」
「オークを知らないなんて珍しいですね。ゴブリンと並んで有名な魔物なはずなんですけど……」
「ゴブリン……ワシは記憶が曖昧なようじゃ」
街までの道中、ノブナガはローラからこの世界の常識についての情報を得ていた。世界の貨幣に始まり、先程戦った化け物やこの国の政治形態、冒険者という職業についてなど様々なことを聞いた。非常識過ぎたことを疑われた際は少し焦っていたが、記憶が曖昧だと言って切り抜けた。
木の箱……馬車が壊れてしまったことで3人は歩いて街へと向かっていたが、護衛であるアルベルトは2人の一歩後ろを歩いていた。
「お嬢、気を付けてください。前からゴブリンの群れが来ます」
ノブナガにはまだ見えていなかったが、少し歩くとアルベルトの言葉通り、少し離れたところに先程教わったゴブリンの特徴と一致する魔物の群れが見えた。
「おいノブナガ、お嬢を任せるぞ」
「……お主らの立場なら逆の方がいいじゃろ」
「ノブナガ様、私は逆じゃない方が良かったです……」
「お嬢!?」
ノブナガはそう言ってゴブリンの群れへと走り出した。後ろでやかましい声が聞こえてきたが、ノブナガは特に気にすることなく走り続けた。
やがてゴブリンたちの視界へと入ると、奴らも粗末な武器を構え、走ってくるノブナガに備えた。しかし彼の刀と剣術は、粗末な武器で止められるほど弱くない。
ゴブリンは自身が持つ棍棒の射程範囲にノブナガが入ってくると、ゴブリンなりの全力で頭目掛けて棍棒を振り下ろした。しかしその動きは彼にとって遅すぎて止まって見えるほどであり、避けるのは簡単であった。
「遅すぎるぞ」
必要最低限の動きで棍棒を避けるとゴブリンの肩へと刀を振り下ろした。そのまま刀は反対の脇の下まで抜け、ゴブリンの胴体を真っ二つにした。
仲間が為す術なくやられる姿を見てやっと命の危機を悟ったのか、ゴブリンたちは今になってやっとノブナガのことを警戒した。
「今更警戒したところでどうということはないわ!」
残りのゴブリンたちは攻撃する時間も与えなかった。
ゴブリンが動き出す前に距離を詰めて、刀を首へと振り払い一撃でゴブリン命を刈り取る。残りはゴブリンはそれの繰り返しであった。
「これだけ血を浴びても刀の切れ味は落ちぬか……実休光忠の能力は分かったが、薬研藤四郎の方はどうじゃろうな……次は使ってみるか」
「やっぱりすごいです! ゴブリンとはいえあの数を1人で倒すなんて!!」
「簡単な相手じゃった」
「やっぱりノブナガ様はすごいです!!」
この世界基準で言えば、ゴブリンの群れは一般人にとっては脅威になるが、ある程度研鑽を積んだ冒険者であれば、簡単に倒せる相手なのでローラが大袈裟なだけであった。
ローラがノブナガをおだてて、ノブナガは反応することなく、アルベルトの機嫌が悪くなるというのを街まで続けていた。
「ここがガーランド商会の本拠地であるブレーエンです」
流石のノブナガもブレーエンの街並みを見たら驚きを隠せなかった。
戦国時代の世では、城も含めて木造の建物がほとんどだったが、ブレーエンにある建物は木造の物や石造の物など多種多様であり、安土の天守に及ばすとも日本にはほとんど存在しない高い建造物が多くあったこと驚いていた。
「これほど文明に差があるのか……日本の先を行っておった南蛮もこれ程だったのか?」
「南蛮?が何か分からないですが、ブレーエンはこの国有数の商業都市で、かなり発展しているんですよ」
「なるほど……この街は上澄みというわけか。ならばこの国の発展度は王都とやらと、発展していない果てを見てからでなければ分からぬな」
自身の作りあげた岐阜や安土の町に対してプライドがあったため、圧倒されたブレーエンの街並みがこの国の平均だった場合、少しプライドが傷付けられていただろう。しかしブレーエン上澄みだと分かったため、ノブナガは少し安堵していた。
そして革新的で新しい物好きの彼は、前世でも新しいものは積極に採用して、先進的な南蛮にも行ってみたいと考えていたが、織田家当主としてのしがらみが彼を自重させていた。しかし織田家当主という立場が無くなったいま、彼は好きに、自由に生きていけるこの世界にワクワクが止まらなかった。
「世界とは広いものじゃ」
「……? ガーランド商会を案内しますね!」
「うむ」
ノブナガの言っていることをあまり理解できていないローラだったが、特に気にする事はなく話を進めて行く。
ローラに案内されたのは、周りの建物より一回りほど大きく、木造でありながら日本の建物より遥かに頑丈そうな建物だった。
「おー! やっと帰ってきたのかローラ!! 心配していたぞ!!!」
建物に入ったノブナガたちを待ち受けていたのは、髭面にハゲ頭、2m近くある身長に筋骨隆々の肉体をした巨漢の男だ。その男は建物内に入ってきたローラを見つけると見た目からでは想像がつかない甲高い声をしながら抱き締めた。
「やめてよパパ! お客さんを連れてきてるんだから」
ノブナガにとって"パパ"という言葉の知識はなかったが、話の流れ的に父親のことを意味することを何となく理解していた。
ローラの言葉を聞いた巨漢の男はノブナガの方を見ると、鋭い眼差しで睨みつけた。普通の大人でも泣きたくなるほどに怖い顔だったが、いくつもの修羅場をくぐり抜けてきたノブナガは、睨み返す余裕があった。
不穏な空気が流れる中、慌ててアルベルトが巨漢の男の耳元で何かを囁くと、男は慌てて頭を下げた。
「済まなかった! てっきりローラが彼氏を作ってきたのかと」
「ありえんな。ワシはそっちの娘に何の魅力も感じておらん」
ピキリと空気にヒビが入るような音が聞こえるほど、巨漢の男はブチ切れていた。目の前で娘に魅力がないと言われてキレない父親は居ないため、仕方の無いことだが、殺気混じりにキレてしまったのが運の尽きだ。
「ワシに殺気を向けるとは……ワシとやる覚悟があるのか?」
先程とは比べ物にならないほど不穏な空気が流れていたため、アルベルトが慌ててノブナガのことを止めようとしたが、ノブナガの動きは一瞬だった。
「ワシは冗談が嫌いじゃが、うぬのは冗談か? それとも本気か?」
アルベルトが近付く前に刀を抜くと、巨漢の男の首筋へと向けていた。
「い、いや冗談だ」
「……そうか。先程も言ったが、ワシは冗談が嫌いでな……次はないぞ」
そう言いながら刀を鞘へと戻した。アルベルトは冷や汗を流し、巨漢の男は腰を抜かし、地面に腰から崩れ落ちた。
「……ぞんざいに扱われるのも以外にいいかも」
その間ローラは未知の気持ちに心が揺さぶられていたが、ノブナガは無視することに決めた。
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