第13話

ひゃあ。とうとう例の「エンガッツイオ司令塔」が、おれをロックオンしやがった。これからは常におれが、このおれが、黄綬褒章受章の大作家のおれが、消し忘れVチューバーだっけ? ああいうみっともない役割を演じにゃならんのかーとほほほほほ。 思えば文壇デビュー以来60年超、ホンマ紆余曲折はあったけど、おれは真面目でがむしゃらで、ひたすら文学と虚構の女神に忠誠を誓い、生活やら労力のすべてを捧げてきたんだよなあ。


 「玄笑地帯」の掉尾を飾ったのは、創価学会創始者の「戸田城聖」の全集が、いつもおれの全集より売り上げの上位にあるという逸話で、「おお、それはいったいどういう人物なのでしょうか? 面白くてためになり、ストーリーの構成も神が作ったごとくに素晴らしい小説を書く作家か? 現代のドストエフスキーではないか!…」という、ギャグを洒落で書いてみたが、かつて不可思議な人気だった「熊の木本線」が、結局きわめて予言的でもあったように、この部分も、おれの超時空的な作家的直観の超絶的な冴えの本領発揮という、そういうオカルティックな現象? ひええ。マジかー? おそろしやおそろしや。


 おれは「危険な作家」みたいに言われていたよなー「大いなる助走」でも、「フーマンチュー博士」というキャラが登場するんだよなあ。 文壇の陰の実力者やけど、誰にも正体不明で、が、みんなその名前を聞くだけでぶるぶる震えだす…なんだかわけわからんキャラだが、黒い笑いを標榜するなら、どうしてもそういうエピソードを挟むのがむしろ作家的な良心と、うーんいつもそうだが、そういうタブーに挑戦するきちがいじみた勇気こそがおれの文壇における、そして日本におけるレゾンデトルだったんだよなー


 だけど、「えんがちょ司令塔」は、さすがに書くべきでなかったんだよなー原理の不明な、風見鶏みたいに始終コロコロ旗幟不鮮明に二股膏薬しているああいう高度情報化社会の仇花? ああいうのには、いくら軽薄でも、アンタッチャブル、と無視を決め込むべっきだたんだ。…


 あれ、もうロックオン外れてみたいだな。心配しすぎだったな。は、はは。


 案ずるより産むが靖。もとい、安し。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

<特別寄稿>? ”筒井康隆はなぜゆえに特別な作家であるのか?” 夢美瑠瑠 @joeyasushi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ