転生令嬢(オレ)は愛でるのに忙しい!
白千ロク
第1話
あ゛あ゛あ゛あ゛ー! 死んだ! これは死んだ!
どうしたら平穏な森にドラゴンがいるんだよ!
「主様ぁっ、わっ、わたげが囮になるです!」
「そんなことさせるわけがないだろぉ!」
魔術で寝かせた妹を背負いながら走るオレに並走している真っ白なふわもこ
けれどもわたげはオレを逃がそうと必死だ。
剣と魔法の西洋風ファンタジー世界に生まれ変わって五年。授乳やおむつ替え、入浴の羞恥に耐えたオレを待っていたのはドラゴンだった。しかも真っ黒――暴れ黒龍と呼ばれているくそヤバイ奴と遭遇したわけでしてね。ド直球で死ねと言われているようなものだ。つまりは、勝ち目はないから少しでも生存率をあげなければならないという話になる。
だが待ってほしい。オレは二頭身マスコットを捨ててまで生き延びたくない。震えるわたげを見捨てるなんてありえないんだよ!
覚悟を決めろ!
オレは公爵家ご令嬢。辺境伯とも呼ばれる家の三女たるアリスローズ・ファルタル・バラリセン!!
ローズとバラリセンという、薔薇がふたつついた名前は未だになんとも言えない気持になるが、辺境伯に生まれたのだから力は必要なのだ。たとえ女であろうとも。力は正義のひとつなのだから。
「わたげは妹を頼む! 結界は張るから心配すんな!」
「で、ですが、主様はっ!?」
「やらなきゃならないことがあるからな。大丈夫だって、危なくなったら逃げるし」
木の陰に隠れて妹を下ろしながらも早口でそう伝えると、先月の誕生日プレゼントで貰ったブレスレットを外す。
「いいか、危なくなったらオレを置いて速逃げろ。母様かメイドにブレスレットを渡したらいいから」
「嫌ですぅ! わたげも戦えますよぅ!」
「わたげもいなくなったら、妹を守る奴がいなくなるからダメですー」
大丈夫だからと頭を撫でてやると、わたげをオレの胸元に飛び込んできて小さな頭を擦り付けてきた。強く。
「主様ぁ……、ちゃんと、わたげの元に帰ってきてほしい、です」
「解った」
死亡フラグっぽいが、ここでちゃんと返事をしないと離してはくれないだろう。もう一度頭を撫でると、ブレスレットを渋々受け取ったわたげは妹の傍にふよふよ浮いた。
ドーム状の結界を張れば、剣帯から短剣を抜く。ブレスレットは母様からの誕生日プレゼントだったわけだが、この短剣は父様からの誕生日プレゼントである。
見た目は優男なんだが、脳筋なんだよなー。武に能力を持っていかれていたりするが、気遣いもちゃんとできる男なのだ。第二夫人の子供のオレもしっかりと認知されていて、面倒を見てもらえているし。
この森も領地の一部となっているから、ドラゴンがいるのは面倒事にしかならない。追い返せたらいい方だろうが、ドラゴンを追い返せすのにはどうしたって力がいる。
たかだが生まれて五年しか経っていない女の子になにができるんだって話だが、やらなければ死ぬだけだ。そして大事なものを守るためには、いまやらなければならないんだ。
「――アリスローズいきまーす!」
ロボットには乗ってないけど、自分を奮い立たせるためにそう叫んだ。
転生令嬢(オレ)は愛でるのに忙しい! 白千ロク @kuro_bun
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。転生令嬢(オレ)は愛でるのに忙しい!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます