第4話 能力者

ただのピンク色のおっさんと化したフラミンゴおじさんは、訥々と語りだした。


あのね、そう、あれは私が40代の頃。丁度あなたと同じくらいの時かしら。会社で嫌なことがあってね、あとは何より、私の個性が人とは異なっていてね。この成りをし出したのも丁度その頃。会社ではよく苛められたわ。今みたいにパワハラだのセクハラだの無かった時、男は男のように、女は女らしく、そんな時代だったわ。会社での、今で言うセクハラ?みたいなのにあってね、会社を辞めたの。そこからかしら、徐々にこの能力に気づき始めたのは。


ピンク色の羽織着がフワフワと風に靡いている。ピンクのおっさんは煙草に火をつけ話しを続ける。


初めのうちはね、それこそ、気づかない程の瞬き程度の時間だったの。それがね、どんどん長く感じるようになったの。最初はそりゃあ戸惑ったわよ。でもね、慣れって恐いものね。どんどんどんどん長く時間を止められるようになったの。今では5秒程かしら?慣れていくうちに、時間を早めたり戻したり、そうね、ビデオテープの再生、早送り、巻き戻し、一時停止をイメージして貰えると説明が早いわ。


生唾を飲むのを堪え、変な音がするのを止めれず、聞こえなかったかとピンク色に目配りをする。耳も遠くなっているのか自分の話に陶酔しているのか、遠くの方を見ながらお構いなしに話を続ける。


この能力は私の個性が生んだものだと感じたわ。そして、誰もが同じような能力を持っている。同じようなって言っても、時間操作は私の能力。あなたにもきっと他の何か能力があるわよ。その為には、自分を解放する必要があるわ。1度全てを解放する必要があるの。破壊と再生ね。それなくしてこのスタンダップ能力は手に入らない。


何処かで聞いたような名前だな?漫画であったぞ?スタンドではなくスタンダップ?


そ、スタンダップ。あの漫画では「傍に立つ」という意味からスタンドと言われてたわね。でもこの能力には守護霊とかそういった概念はないの。あくまで個人能力のレベルアップ。そして、1度破壊したところ立ち上がる事を意味して私がつけた。名付けてSTAND UP!スタンダップ!いいでしょ?


...名前はどうでも良いが、本当にそんなことあり得るのか?そんな超常的な事がほんとに...


言葉を失くした。

本当にそんなことあり得るのか?いや、期待して来ていてこんなこと言うのも何だが、本当にそんな超常的な事が出来るのか?


...分からない。本当なのかそれは...そんなこと...


それは、あなたが失ってないからよ(笑)

スタンダップは、破壊と再生ねって言ったでしょ?あなたは持ちすぎてるの。全てを失わないと能力は解放されないわ。だから、生半可な事ではこの能力は持てないの。まずは、全てを失う覚悟を持つことね。


有給を使った甲斐があった。

こんなにも凄い超常的な事が出来るのか。全てを失うだけで...

いや、全てを失うだけって、余程覚悟が無いと出来ない事だ。私のうぷぷ念仏なんぞ俗世を生き残るための工夫ってだけだ。それに比べてこのおっさんは...


開いた口が塞がらないとはこの事だ。

今までピンク色だのフラミンゴだのと言っていたのが本当に恥ずかしい。畏れ入った。この人は本当に悟りを開いたのだ。神の道を進む人なのだ。そんな人と私は今1対1で話をしている。何と...もはや言葉にならない。


そこからの記憶は朧気だ。

フラミンゴおじさんが、相も変わらず時間操作して信号無視してモーゼのように渡りきる後ろ姿を見ているのだけは覚えている。

気づけば私は家にいた。ピーナッツを食べながら、もし、能力が開花したら、どんな能力が欲しいかを考えていた...



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おっさん珍道中4~もし異種能力者となったら~ 紫音 @purplemu49

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