第3話 告白
フラミンゴおじさんは訝しげに私を見てくる。無理もない。こんな自分にマトモな人間は声をかけてこない事などとっくに分かりきった顔をしている。しかしだからこそ、私が声をかけた事に何かしらの意味があると踏んだのだろう。
暫くの沈黙を置き、フラミンゴおじさんが口を開いた。
...君は、何を悩んでいる?
ゾッとした。
女装、剛毛、蟹股、その上近くで見ると50代位だろうと思っていたがとっくの昔に過ぎている。皺だらけで厚化粧してはいるがその顔は70代と言っても過言ではない。
そんな成りで、極自然に他人の分析をするような目で、声で、私に普通の事を尋ねた。その、あまりにも普通な事実が、不気味さをより一層際立たせた。
...仕事で、時間がないのです。
あまりにも稚拙な返答をしてしまった自分が情けない。そんなこと、このおじさんに話すために来たわけではない。
...ゆっくりやればいい。時間は、自分で決めるものだ。
おじさんは淡々と話し始めた。
私もね、あんたと同じくらいの時に迷ったさ。挙げ句の果てがこんな成りさ。あんたには未来がある。こんな成りになる前に、自分の時間を持つ能力を持ちなさい。
あまりにも普通すぎる答えに絶句した。まさかと思った。こんな成りのおっさんに、あまりにも普通すぎる答えを貰いに来たわけではない。もっと超常的な何かを求めてきた俺の有給を返せ。そう思った。
...あの、そういうことは、普通というか、あなたに言われなくても分かるというか。そういうことあなたに言われたくないというか...
失礼である。が、失礼であってもこっちが聞き出したいことはそういう当たり前のことではない。もっと超常的な何かなのである。
あの、ここの道路、拓けてはいるものの、結構車通りが多いですよね?それをあなたは悠々と渡ってらっしゃる。それも信号無視して。なのに事故は起きない上、あなたを避ける、若しくはあなたが通る時は車が止まる。ルールを無視してるのはあなたなのにも関わらず、何故かこの道路はあなたを中心に動いている。それは何故なのか知りたくてあなたに声をかけさせていただきました!
グロスを塗っているのだろうが、唇が乾燥して割れたそこから血が流れ歯を赤色に染めているその口で、おじさんは言った
そんなこと、私がルールだからに決まっているからさ。信号無視?そんなこと知らないね。んじゃああんたは車が通ってない道路でも信号が赤なら通らないのかい?そんなこと無いだろう?車が通っていなきゃ通っていいのさ。モーゼって知ってるかい?私が通る時、そこは私のルールになる。モーゼのように私が通る道を作るのさ。何故ならここは私のルールで出来てるからね。それをするのは私個人だからさ。私が良ければそれでいいのさ。それは何処に行っても変わらない。私が私のルールに従ってこの道を通る。それは人生も同じさ。私の事をフラミンゴだとかなんだとか言われてることは知っている。でもね、私は何も気にしない。私は私だから。私がやりたいように生きて何が悪いってんだ。
確かにそうだ。信号が赤でも車が通ってなきゃ俺は通る。誰が何と言おうと通る。何故なら通ってないから。...いやいや待て待て。だからと言ってこのおっさんの全てが正しい訳じゃない。おっさんは道路渡ってる時に信号が変わっても明らかに渡りきれておらず、車の運転手にはとかく迷惑なおっさんなのだ。それをばこのおっさんはまるで反省の色もない上に、あからさまに開き直っている。
それは開き直りですか?開き直りだけでこれだけの事をして他の者達が納得するとは到底思えません。きっと何かある筈だ。あなたの行動はそうでなければ辻褄が会わない納得出来ない!
私は思いの丈をぶつけた。何年ぶりだろうか、いや、初めてかもしれない。これ程自身の思いの丈をぶつけたのは。同時に空しくもあった。初めて思いの丈をぶつけた相手が他ならぬこの珍妙なおじさんなのだから。
大人しかった男が突然わめき散らすように言ったのだから、流石のおっさんもただのピンク色のおっさんになっていた。
いや、うむ、そうだな、なんつうか、その、あれだ!私は、そう!時間をね、少しく操作できるのだよ!
おっさんが遂に自身の秘密を口にした。
そこからはおっさんの能力解説を聞くことになった。
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