第2話 フラミンゴおじさん

そんなこんなでヤンナッチャウゼ状態の私は自棄になってウハハ配送を繰り返す日々。

そんなある日、道路を悠々と歩くヘンテコなおっさんに遭遇する。

そのおっさんはどうにも珍妙で、何が珍妙かというと、まず、女装している。フラミンゴのような派手なピンク色の、フワフワとした羽毛のような羽織を着ており、下はあわやパンツが見えるのではないかと思われるようなミニスカートを履き、靴はハイヒール、背の丈は170cm位、年の頃は私より上で50代位だろうか。

そんな珍妙な格好で女性らしく歩くのならばまだしも蟹股で、ミニスカートから露出している足も細くはあるが剛毛である。遠目で見ていても珍妙であった。

田舎の少し拓けた道路で、ビュンビュンに飛ばしている車のなか、その珍妙なおっさんは、悠々と信号無視するのである。普通ならちょっと小走りになるというか、せめてゆっくりでも急ぐフリをするとか、や、こりゃすんませんって何かしら手を上げるなり何なりすると思いきや、そのおっさんたるや、悠々と信号無視をしビュンビュンに飛ばしている車を無視してのらりくらりと歩いている。ビュンビュンに飛ばしていた車も悠々とのらりくらり歩くおっさんのあまりにも悠々とした姿に、あかん!赤信号か!?なんて思ってしまって急ブレーキを踏むもんだから危なくて仕方ない。ここいらを走る車の運転手達は皆口々に、フラミンゴおじさんと愛称を付けてそう呼んでいた。それが何度も何年も繰り返されるうち、情報は尾を帯びて、フラミンゴおじさんが時を操作して道路を渡っていると言われるようになった。そんな馬鹿なと思うが、噂や情報の類いはいつもそんなこんなで尾を帯びて針小棒大に伝わる。その良い例である。

しかし、と私は思った。例えば痴呆症というか、何かしら欠陥や病気があって何度も何年も繰り返される行動であれば、おっさんの買い物袋の意味が分からなかった。というのも、フラミンゴのおっさんはどうやら買い物を自分1人で行っているのだ。そんな人がビュンビュンに飛ばしている車がある道路を何度も何年も繰り返し、それも悠々とのらりくらりと渡るだろうか?もしかしたら本当に時を操っているのかも知れん。時の操作ではなくとも、何かしらの人を操る能力があるのやも知れん。

いやいやそんな馬鹿な、と思いつつ、内心ではそんな馬鹿なことにも可能性はあるかもなと思い始めていた。何故なら、自身がうぷぷ配送と名付けた念仏のように唱えながら配送することで調子上向きになった経緯があるからだ。その経緯がなければ、フラミンゴおっさんの事など、ただの珍妙なおっさんとしか見なかっただろう。

居ても経っても居られず、フラミンゴおじさんが出没する道路で待ち構えることにした。

こういう時に限って来ないもので、待ってる間むしろ、ちょっと私も疲れているのだな、やっぱりマトモな考えじゃない、ただの珍妙なおっさんだよワハハと笑ってその日は帰った。

しかし、頭からフラミンゴおじさんが消えない。忘れようと思えば思うほど、あの珍妙なおっさんが出てくるのである。遂にその日は眠れず、ただ、あのおっさんに会って話をしてみたいという願望だけが私を突き動かした。

次の日も、また次の日も、仕事終わりにおじさんを待ち構えるがなかなか出会わない。私は遂に有給を消化してフラミンゴおじさんが出没する道路で待ち構えることにした。そして遂にその時は来た!フラミンゴおじさんが出没したのだ。今日もまた珍妙な格好をしている。ドレスを着て日傘を指している。巷で言うゴスロリファッションというやつであろうか。別に可愛い娘が着る分には私もなにも言わない。むしろ好きである。しかし、50代を迎えた剛毛なおっさんがそれを着て歩いている姿を見るのは、おぞましい妖怪でも見ているように不気味であった。

あの!

不気味なおっさんに声をかける私もこれまた不気味な存在だろうな、と思いながら声をかけた。

近くで見るおっさんは、おっさんそのものであった。見るも無惨とはまさにこの事。ゴスロリを世界で着せてはいけないランキングでもあれば常に上位ランカーキープか、殿堂入りしているだろうな。とにもかくにも不気味であった。

...はい?


おっさんである。


ここに、おっさんを待ち焦がれたおっさんと、思いがけず声をかけられたおっさんとの話が始まるのであった。

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