おっさん珍道中4~もし異種能力者となったら~

紫音

第1話 おっさん、能力欲しがる

念仏唱えながら今日も調子良く配送している。うぷぷ念仏で口角上がって接するものだから、そりゃ客の反応も良く営業成績もウハハなので、もはやうぷぷ念仏ではなくウハハ念仏である。しかし、現在の会社の仕事のやり方では、これ以上成果が上がりにくいこと、手が追い付かないのに気づいている人は何人いるだろう?

要領が悪いという人もおるとは思うが、要領良くやっても毎日定時で上がれないのである。

何処かの部署に1人2人増員しなきゃならんのに、募集してもいつまで経っても引っ掛からない。例え引っ掛かっとしてもすぐに辞めて居なくなる。とにかく定着率が低い。結果、慣れた人間がやりやすいような環境が成立してしまい、新人が入っても慣れるしかない。各々の人の慣れたやり方で教わる為、言ってることがちぐはぐな事が多々あり、結果慣れずに辞める。ルールが各々の人間の慣習となっているのである。それを9年目の当たりにしている。いい加減そういったものもこの際データ化してしまえと何時言っても変わらんので、ヤケになって念仏唱えて配送してたらうぷぷウケる~っとなり口角が上がり印象が良くなり、結果成績も向上。値上げラッシュにもうぷぷ配送してたら成績は向上の一途を辿り、遂に全社で営業成績1位を記録。誠に見事今後とも宜しくって、結果会社は何も変わりはしなかった。

とにかく時間が欲しい。人手不足ならば不足している分働かなければならず、皆か皆そう思えば良いが、そう思っているのは自分だけ。というか実質、自分が働かなければならない状況であるという事実がある。

拠点とする営業所の近隣で営業配送しているのは自分であり、他の者達は拠点から離れた位置の営業配送をしている。拠点に帰ってくる時間もマチマチで、午前中でほぼ営業配送を終えるのは私だけだからだ。倉庫に入り、他の営業配送の為に期間限定商品の見積書を作り、滞留品も売らなければならない。1度サボったら仕入から詰られた経緯があり、それが他のぶしょや人への八つ当たりへと変わる。見てられない。結果頑張る。すると滞留品は私に任せれば売ってくれるという変な期待感が生まれる。別に無視すれば良いものの、八つ当たりを考えると無視など出来まい。ヤンナッチャウゼホントニヨ~と思いながら念仏唱えてうぷぷ配送してたらウハハ配送になった。

まぁとにかくそんなこんなで時間がない。時を止める能力だったり、私だけ早く動ける能力だったりあれば或いは何とかなるだろうが、そんな能力無いよなぁと仰ぎ見る青空。雲一つ無い快晴だが、それが何より苛立たせる。せめて雲の一つでもあれば、何か一つでもそこに引っ掛かる何かがあればと、想いを馳せる。

超人的な能力が欲しい。

私は空虚な想いを馳せて何も引っ掛からない快晴の空を見ていた。

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