第6話 恋煩い
次の日の日曜日、私は家族との用事があり先輩には会いに行けなかった。
そして週が明け月曜日の朝。
梓から来ていた回復したというメッセージを読み、いつもと変わらない一週間の始まりに安心する。梓がいないと一週間が始まった気がしないから。
いつもの交差点で元気になった梓と挨拶をして学校へ向かう。
「華恋、ごめんね」
「何が?」
「遊びに行こって言ってたじゃん。忘れてたの?それより、もうひとつの予定の方には行ったんでしょ?」
「うん。まあね」
「別に聞かないけどさ。彼氏じゃないよね?」
「彼氏じゃないよー」
……まあ好きな人ではあるけど。
「親友のことを知りたいって思うのは普通だからさ。いつか教えてね」
「そのうちね」
そして学校へ着き、授業が始まる。
……先輩、可愛かったなぁ。ショコラパンケーキとココアと先輩って似合いすぎでしょ。ボサボサの金髪もよく見たら綺麗で、それよりも先輩が綺麗で美しくて。
先輩のあのキラキラ笑顔はもう見られないのだろうか。どうにかしてあの笑顔を取り戻してあげたい。
週始めで集中力が上がらないせいか、今日はいつも以上に先輩のことで脳内が埋め尽くされている。
……向河原紗菜依存症とでも名付けようか。
午前の授業が終わり、梓が私の席に来ようとした時、教室の入口で梓を呼ぶ声が聞こえた。
「あず、いるー?」
中原先輩だ。バレー部の用事だろうか。
「中原先輩!どしたんすかー?」
取り出した弁当を一旦机に置き、中原先輩の元へ行く梓。
「あず、体調は大丈夫そう?」
「大丈夫っすよー!」
梓は元気に答えていた。
「そっか良かった。今日部活来るよね?」
「はい、行きます!」
私は二人が話してるところをただ眺めていた。
中原先輩は向河原先輩の不登校に関してどう思っているのだろう。
知りたい気持ちと知りたくない気持ちが入り交ざる。
「華恋、飯食お」
話を終えた梓は弁当を持ち私の席へ来た。私は梓に尋ねる。
「中原先輩ってどんな人?」
「私がさっき話してて嫉妬した?」
「じゃあ話さなくて良い」
「嘘ごめん。中原先輩はねぇ、後輩想いで優しい先輩かな。向河原先輩と仲良くしてた時も、優しそうに接してたけど。喧嘩するようには見えない。でも今年に入ってから割と厳しくなったかな」
「そっか……」
それだけ中原先輩は、好きな人が向河原先輩を好きだったことが嫌で嫉妬していたってことなのかな。
午後の授業が終わり部活へ向かう。更衣室で着替えているとスマホのメッセージ音が鳴った。相手は向河原先輩。
「今日は来るのか?津田山とゲームやるの楽しいし早く遊びたい。さっさと部活終わらせて来い」
……先輩が私とゲームやるの楽しいって思ってくれていたなんて。しかも早く会いたがってるなんて。ほんともう可愛すぎる。
好きな人からの突然のメッセージにもドキッとするのに、さらに会いたいって言われるなんて。
脳内が向河原紗菜一色に染まりながら、バスケ部の練習が始まる。ジャージに着替えていた時の記憶は無くなっていた。
部活が終わり部員が更衣室へ向い始める中、私は立川先輩に呼び止められる。
「ねえ華恋、ちょっと」
「はい?どうしたんですか?」
「今日の華恋ヤバかったよ」
「え……。マジですか」
「声全然出てなかったし、動きは身体が覚えてる範囲で動いてたけど、なんか上の空ってかんじで」
「すみません」
「悩みあるなら言いなよ。聞くからさ」
……向河原先輩のことを考えていた、なんて言えるわけ無い。
「片想いです。好きな人がいまして」
……言ってしまった。でもこれ以上は言えない。
「恋煩いかよー。ボーイッシュな見た目して乙女だね華恋は」
笑いながら私の頭をポンポン叩く先輩。
「これ以上言えませんから」
「梓ちゃんには話したの?」
「いえ、話してません」
「これ私が先に聞いちゃってよかったのかな」
「正直言いたくなかったです。なのでこれ以上言いません」
「教えてって言ったら?」
「帰ります、お疲れ様でしたー」
私は逃げるように更衣室へ行き、荷物をまとめ学校を出る。
そして急いでゲームセンターへ。
「先輩、お待たせしました!」
「津田山、お疲れ」
その一言と先輩の可愛い声で、疲れは吹き飛んだ。
「土曜日に話してた、このキャラクター使ってみます」
「おお!津田山そいつ使っちゃうかー」
先週から始まった先輩とのこの時間。放課後にゲームセンターで一緒に格闘ゲームをやって遊ぶだけのこの時間は、とても楽しくて幸せで、これからの生き甲斐になっていくんだと思った。
先輩が学校に戻ることはあるのだろうか。私が今この時間を好きでいる時点で、学校に戻ってほしく無いと思う自分もいるかもしれない。もう少し、もう少しだけ、先輩とのこの特別な時間を味わっても許されるだろうか。罪悪感よりも背徳感が勝っている今のうちに。
天使が堕ちていた 三咲旭 @misakuasahi
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