第6話



 

 「…ん…」


 

 屋敷の薄暗い地下室で、冷たい地面の感触を肌に感じて、クロードは目を覚ました。現状がいまいち把握できていない。ロイド戦争で敵の撃つ攻撃をかわせなかったので、おそらく死んだはずなのだが、どうやら自分はまだ生きているらしい。うつ伏せの姿勢からゆっくり起き上がった。


 「…?なんだこれ…」


 真っ先に足元の魔法陣が目に入った。辺りを見渡すとそこは見覚えがあった。物の配置を見るに、どうやらここは、自分の屋敷の地下室らしい。そして次に、部屋の隅にある、コートのかけられた何かを見つけた。そのコートを退けると、それら血まみれになった死体だった。正確には、人になりかけの人形であった。顔などは潰れていて詳細は確認できないが、それは黒髪黒肌で紅い眼を持ち、背丈の具合からもクロードの姿に似ているように思えた。

 

 「なんで、こんなものが…」


 クロードはそれを見て、思わず顔を顰めた。と、同時に、自身の体の違和感に気付いた。自分の体は本来黒い肌をしている。だが今、薄明かりに照らされた自分の手は、血に塗れてはいるものの黒くはなく、むしろ透き通るほどに白かった。


 「……まさか」


 嫌な予感がして、もう一度自分の格好を見直した。見覚えのある白い肌に、白く長い髪、そして、その髪を纏めている金の髪飾り。これはあの子が成人した日に新たに贈ったものだ。吸血鬼になって生えたばかりの初々しい牙を見せて、「ありがとうございます、クロード様」と、嬉しそうに笑っていたのを鮮明に覚えている。クロードは手に取ったその髪飾りをただただ呆然と見つめた。


 「…あの馬鹿…」




 全てを察したクロードの声だけが、静かに月夜に響いたのだった。

 


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ファウストオークション 月餠 @marimogorilla1998

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