放課後ライフ~一生一度の高校生活~
冬冬フユ@Septem Felis
とある日の放課後
第1話 前編
「今日早いし、遠くに行ってみない?」
「遠くってどこ行くん?」
「海。もうそろ夏だし、予行演習も兼ねてみたいな?」
「う~んっ………いいよっ」
答える前に悩むフリを見せるのはヒメノの癖みたいなものだ。
本人に自覚ナシ!
新学期が始まって一ヶ月くらいが経った。個人面談的なのが始まって二日。
そう。
今週は面談ウィークなので授業が午前中に終わる。放課後を有意義に過ごす機会が訪れたというわけだ。
「って、ヒメノ今日面談じゃん」
「あっそうやった。う~ん………大丈夫。あたしに一つ案がある」
そう言って、ヒメノが大学ノートの頁を破り、シャーペンで走り書く。
『お早いですが、残暑見舞いを申し上げます。今日の面談、急用により欠席させて頂きます。』
走り書いたにしては綺麗な文字。
ヒメノは字が綺麗だ。
茶髪にピアスに可愛い顔。ギャルにしては字が綺麗なのだ。
「残暑見舞いって早くない?」
「書いてみたかったんだよね~」
端っこにヒメノの名前を書いて完成。
ホームルームが終わり、先生は職員室へ。
完成した置き手紙を黒板に張り付け、私たちは学校を後にした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「目指すは無人の海っ、ワイキキビーチは遠くにある!」
目指す無人駅の時刻表を指差し、わたしは叫ぶ。公共の場なので声は抑え気味に。
「路面電車って田舎の象徴らしい」
そんなわたしを無視して、ヒメノが呟くように言う。
「そうなの?初耳」
「東京行った時、地下鉄乗ったじゃん。都会の人は地下で移動するのが当たり前なん」
「えぇ~でも、路面電車って地下に下りる手間がない」
「やっぱそうだよね」
ヒメノが顎に指を当てる。
「都会は路面がないと見た」
「あれだよ、あれ。地上にモノが溢れすぎてて、地下を走らせるしかないっ」
そんなこんなで路面に電車が見え始める。車と並走するくらいのゆったりとした速度で電車は走っている。
平日の昼間なので利用客は多くない。
「貸し切りじゃん」
乗り込んだ電車内にフーカとヒメノ以外に誰もいない。
「しゃしょうさんがいるから疑似貸し切り」
「車掌さん………車掌さん。ヒメノ、もう一回言ってみな」
「しゃしょうさん」
「何か変。車、掌、さん」
「シャ、ショウ、さん」
シャ・ショウさん。
中国人みたいな名前だ。
「車掌さんだよ~ヒメノ。シャ・ショウさんって誰よ~」
「あたしは滑舌は悪いのかもしれない」
「滑舌は言えるのにね」
ゆっくりと走る電車がゆっくりと速度落とす。信号に捕まったのだ。
ヒメノの膝上に置かれた鞄に目新しいキーホルダーを見つける。
「また増えた?キーホルダー」
「最近、ガシャポンで当てたやつ。推しキャラは常に身に付けるのは掟だよ」
リゼロのスバル人形の頭をもふるわたしに、オタクの掟を説くヒメノ。わたしがアニメを見るようになったのはヒメノがきっかけだ。
「いつだって、どんな時だって、やりたい変わりたいとそう思ったときがスタートラインっ!」
私的スバル名言を、私的キメ顔で口にする。貸し切りなので恥ずかしさは皆無だ。
「二期めっちゃヤバかったよね?あたし、ヤバすぎて死にかけた」
「スバルは死に戻りできるけど、ヒメノは一回ぽっきりだから死なないように。命があれば未来があるって、ロズワールが言ってたし?」
「未来があれば~?」
「希望がある!」
「希望があれば~?」
「可能性があるっ!」
「可能性があれば~?」
「人は救われるっ!!」
「ロズワールの狂気が垣間見えるおすすめシーンよね」
「目に強いハイライト当たってて狂気さがすごい演出されてた覚えある」
「確かに~ロズワールもあたしの推しキャラの一人」
「わたしも二期で好きになったよ~」
オタク話に花を咲かせ、気付けば目的地の無人駅に到着していた。
放課後ライフ~一生一度の高校生活~ 冬冬フユ@Septem Felis @Winter86
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