ナメアイ

ムスカリウサギ

イタミヲシルトイウコト1

「……っんっ……、ぢゅっ……」


 わざとたてた唾液をすする音が、密閉された部屋全体に響く。

「ず……っ……、ぢゅるっ……、じゅぅる……」

 室内は、ひどく蒸し暑い。それは夏の終わりという残暑厳しいこの季節柄もあるだろうが、生憎それだけではないだろう。


「……ん……っちゅっ……ぅんっ……」

 蒸し暑いだけじゃない。ここは、ひどく独特のニオイが充満している。

 ものがえたようなニオイ。いっそ直球で言ってしまうなら、それは発情したオスのニオイだ。


「んっ……! ぐぅっ……、じゅじゅっ…!」

 あたしの目の前に……というか、今まさにあたしの口の中に、そのニオイの発生源が入っている。

 要はあたしはフェラをしているってことだ。

「ぷぁっ……!」

 を口から吐き出し、手で竿を撫でる。自分の唾液とはいえ、ぬるぬると手に吸い付くものを触るのはなんとなく抵抗はあるのだが、そのせい、ぬらぬらとてかるそれは、いかにも、イヤラシイです、と主張しているようで、その行為に熱中させてくれる。


 右手で固定したまま裏筋とカリ首の間に舌先を這わせて、ちろちろと舌を動かすように刺激する。そのたびにそれは、逐一びくびくと反応を返してくれた。


「はむっ……!」

 そしてもう一度口に含む。口から離している間も唾液は飲み込んでいなかったので、口の中で上下に動かすたび、ぐちゅ……っと、が耳の中から鳴り響く。


 ちろり、視線を向ける。彼がこっちを見ているのを確認して、小首を傾げてみせる。

 もう出そう? そういう意図をこめて。


「…………あぁ……」

 彼は一言、その言葉だけを口にした。

 それを聞いて、流すように視線を戻した。ふぅん、と、興味ない、そんな風にも見えるように。


「んっ……、んっ……ぢゅる! ぢっ……ずぅぅ……!」

 喉の方まで咥え込んで、また一気にカリ首と唇が接するくらいまで引き戻す。さっきよりもスロートを早めると、妙に、部屋を埋め尽くす音が気になった。

 唾液を啜る音、唾液が泡立つ音。

 くぷっ……、ちゅばっ……。それはあたしのくぐもった声と合わさって、あたし自身も昂ぶらせるようで――。


 こっそりと、彼を見上げる。

 と、目が合った。

 彼は小さく笑った。

 それだけで伝わる。あぁ、もう少しだなって。

 だからスロートに併せて、そっと、痛みを与えない程度に小さく歯を立ててみた。


「うぁ……、それ、ヤバい……」

 声が上ずっていた。

 だからあたしは目だけで言う。

 いいよ、出しても。

 それはきちんと伝わったのか。あまり間を空けずに彼の体がぷるっと震えた。


「くっ……! 出す、ぞ……!」

 そう言ったのも束の間、あたしの口の中に、小さな衝撃。同時に粘っこい液体が満たされていく。少し遅れて、オスのニオイ、なんて陳腐ちんぷな表現しか出来ない独特の臭いが鼻を突く。


「んむっ! ……じゅ……じゅる……、ずず……」

 ひどく粘っこいそれは、二度目の射精だというのにかなり濃い。決して飲むに適してるとは言いがたいが、唾液と含ませれば飲み込むくらいはできる。何かの表現では、腐ったビールとチーズの間のような味、とか聞いた事もある。チーズはともかく、ビールの味はよくわからないし、それが腐った味なんて想像も出来ないけど、それを飲み込みながらなら、なるほど、となんとなくわかる気がする。わかった気になってるだけかもしれない。だから、なんとなく。

 とりとめもなく味について考えてると、口の端から溢れてるのに気がついた。濃いだけでなく、量もかなりあったみたい。他の部分からだを汚したくないから口の中に出させるのに、はみださせないでよ、なんて理不尽な考えが頭に浮かぶ。

 とりあえず口の中のものは全部飲み込んでから、彼に視線。合わせたまま、指の腹で唇の端から、はみ出た精液をぬぐっていく。


「ああ、これ」

 言って、彼は机の上においておいたティッシュを取ろうとしたけど、あえて無視して、ぬぐった液体を舌で舐め上げた。

 決して美味しくはないし、いいニオイがするわけでもない。むしろ空気に触れたそれは、口の中にあるときよりも生臭さが強く、端的に「不味い」と言って不当じゃない。

 そう、深い意味があるわけじゃない。ただ“なんとなく“舐めてみただけ。


「……うまいのか?」

 だって言うのに彼はそう訊いてくれた。

 だから一言だけ返した。

「別に」


 そいつが不思議そうな顔でじっと見つめてくるものだから。……半ば引けなくなって、そのままあたしは指に、手についた精液をきれいに舐めとっていた。


 ……不味い。

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ナメアイ ムスカリウサギ @Melancholic_doe

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