第25話 豆妹、もう黙りなさい
このように虚無な空気になるのが怖かったから、
豆妹は最悪な形で暴露している気がする。これなら雪華自身が直接的な部分をぼかしつつ伝えたほうが千倍マシだった。後悔しても遅いけれど……。
「つまり」
朱翠影が凪いだ視線を雪華のほうに向けた。
「熊家の息子が君に
「………………はい、おそらく………………?」
雪華の声は消え入るように小さい。
朱翠影の視線が生温くなった。
「君とは出会ったばかりだが、真正直な人間であることは伝わっている。だから名簿の偽証に雪華が関わっていたとは疑っていない。しかし事実関係をはっきりさせておく必要があるので、起きた出来事はすべて話してほしい」
雪華は観念して話し始めた。
「今朝、
「海棠……」
朱翠影が端正な顔をしかめる。
意味が伝わったからこその表情なのか、意味が分からないから訝しく感じているのか、雪華には判断がつかなかった。
「海棠を見に行こうというのは、つまりその……男女の……」
なんと言ったらいいのだろう? 雪華は言葉を探す。
性交の誘い……いや、皇帝の弟君に聞かせてよい表現ではないな……親しい交わり……うーん?
豆妹がここでふたたび助けに入る。
「それは好きな人を誘う時の言葉なんです――ふたりで仲良くして口づけするらしい」
いやちょっと違う、口づけだけではない……というかこの子はまったく!
「――豆妹、もう黙りなさい」
雪華は唇に人差し指を当てて「しっ」という合図をし、精一杯怖い顔を作った。けれど豆妹はケロリとしている。
「でも
「あなたが自由に喋るほど私は困ります」
「どうして困るの? 朱さんは
「何が大丈夫なの、変なこと言わないで」
叱られた豆妹は納得できなかったのか、複雑な形に眉を顰めた。
「んー……さっき私が火事を知らせるため店に来た時、二姐は
「抱き着かれていません。あなたが来る少し前に、抱き着かれそうになったけど」
「殴った?」
「殴ってはいない……腕を捻り上げて骨を折るぞと脅しただけ」
雪華は小声で答えた。
同席している折り目正しい朱翠影がこれを聞いているのだと思うと、居たたまれない気分だった。なんというお転婆だ、はしたないと呆れているかも。
もう彼のほうに視線を向けられない。
誠実な人から軽蔑されるのはつらいものだ。胸をチクチク針で突かれているような心地になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます