第20話 韋節度使、おそるべし


 国家機密……? 雪華は眉を顰めた。謎が謎を呼び、何ひとつ答えが出ない。

 ただそうなると……雪華は慎重に口を開く。


「ここが国にとって重要な拠点なら、韋節度使がいなくなっても、代わりの誰かが護ってくださるということですか?」


 それはたとえば、代替わりした新しい節度使とか、あるいは都の誰かとか。


「そうなる」


 朱翠影が頷いた。

 かたわらで聞き耳を立てていた豆妹がぱあっと顔を明るくし、こちらに寄りかかってきた。幼いながらに不安だったのだろう。怖かったよね……いたわるように豆妹の小さな手を撫でていると、朱翠影が驚きの内容を口にした。


「ただ、君たちにとってそれは良いことばかりではない」


「なぜです?」


「韋節度使が取り決めた『不可侵』――これは朝廷に対しての牽制けんせいにもなっていた」


「どういうことですか?」


「分かりやすく説明すると、韋節度使の主張はこうだ――『烏解うかいは国にとって重要だろう、だから異民族が攻めて来ないよう、西部流のやり方で俺が護ってやる。だから朝廷は一切口を出すな。関わるな。足を踏み入れるな』――これを受け入れ、我々はずっと烏解の自治に口を出せなかった。だからこの地方に後宮から使者が来たことはなかっただろう」


 あ……! 驚きの声が出そうになった。

 確かにそう――後宮入りする妃や女官は本来、全国から広く集められる。けれどこの山村から後宮に連れて行かれた者はひとりも存在しない。少なくとも直近の十数年は誰も招集されていないはずだ。

 雪華はこれまで『ここがあまりに田舎だから、後宮から使者が来ないのかな』と流していたけれど、改めて考えてみるとやはりありえない。

 それは韋節度使というこの地方を束ねる大物が、中央の力が及ばないよう、突っ撥ねていたせいなのか……『不可侵』の約束事は異民族に対してもそうだし、同時にこの国の頂点である皇帝にまで及んでいた。


 韋節度使、おそるべし……何者なのだ、あなたは。

 すでに亡くなったあとだが、彼の辣腕らつわんぶりに震えが出る。


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