第19話 詳細は国家機密
先ほど豆妹が「『
朱翠影が咳払いをひとつしてから、話を主筋に戻した。
「君たちが住む
確かにそう……雪華は考えを巡らせる。
近隣の都市はこうしているあいだも常に侵略の危険にさらされている。彼らは皆、西からいつ異民族が攻めて来るか分からないと、びくびく怯えながら暮らしているのだ。しかも警戒すべき異民族はひとつではない、いくつもある。
実際に侵攻されれば、近くの
西の辺境でありながら安全が保障されてきたのは、ここ烏解だけなのだ。
朱翠影が続ける。
「烏解は『不可侵』――その約束事を血気盛んな異民族も守ってきた。このように常識ではありえないことが成立している場合、裏では大きな力が動いている――つまり烏解を特別区域だと周知させた
「では――後ろ盾になってくれていた韋節度使が消えたから、すでにここは『不可侵』ではない?」
雪華はゾッとしながら呟きを漏らした。
知らなかった……この平和がかりそめであることは承知していたが、先月すでにそれが崩れていたなんて。
……
自問し、すぐに答えが出た。
ああ――おそらく知っていた。
先月のことだ……何日か姐姐が暗い顔をしていたので、雪華が大丈夫か尋ねると、「少し寝不足なだけ」と返された。実はあの時、姐姐は韋節度使の死を知ったのでは?
姐姐は方々に繋がりがあり、顔が広かった。様々な噂話に通じていた。
いつもは仕入れた噂を雪華にも教えてくれるのに、韋節度使のことは違った。ひとりで悩みを抱え、雪華には秘密にしたのか……なぜ? 言っても仕方ないと思ったから? 頼りにできないと思ったの?
心が千々に乱れた。姐姐……どうして……。
雪華は目を伏せ、考えを巡らせる。
だけど……何かがおかしい。
ハッとして顔を上げ、対面席に座る朱翠影の怜悧な瞳を見つめる。
「韋節度使が管轄していたのは、烏解だけではないですよね? もっと広い範囲を治めていたはず――それなのに『不可侵』なのは、ここだけなのですか?」
この山村が護られていることはあらかじめ承知していたが、それはもっと小さな話なのだと思っていた。地主である
ところが今聞かされた内容は、それとはまったく違っている。
烏解だけ特別扱いした意味が分からない。出身地というわけでもあるまいし。
朱翠影が問いに答えてくれた。
「韋節度使も可能ならすべての管轄地域を護りたかっただろう。しかし複数の異民族相手に『絶対不可侵』を護らせるのは並大抵のことじゃない。彼の力をもってしても、烏解というひとつの村に限定するのが精一杯だった」
「なぜ烏解が選ばれたのでしょう?」
「それはここが特別重要な拠点だから」
「特別重要……具体的には?」
資源? 立地? よく分からない……確かに烏解は
「詳細は国家機密だ。君に話すことはできない」
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