第11話 姐姐は遠出する感じだった?


 遠くに見える火の手はなかなか治まる気配がない。

 団子屋の店先に佇んでいると、風向きにより時折、いぶくささが強まったり弱まったりする。

 ぼんやり火事を眺めていた小さな豆妹とうめいが、不意に何かを思い出した様子で、こちらを仰ぎ見てきた。


「――そういえば姐姐ジェジェは帰って来た?」


 隣家同士親しくしているため、豆妹も燕珠えんじゅのことを「姐姐ジェジェ」と呼んで実の姉のように慕っている。

 そして雪華せつかのことは二番目の姉――「二姐アージェ」と呼ぶのだ。

 姐姐は帰って来たかと尋ねられた雪華は、豆妹の小作りな顔をまじまじと見おろした。

 火事の騒ぎでも姐姐が顔を見せないので、「もしかして今店にいないの?」と不思議がられるなら分かる。けれど先の問いは、そういう訊き方ではなかった。


「豆妹は姐姐が出かけたことをなぜ知っているの?」


「それは朝まだ暗いうちに、姐姐がうちに来たから」


「あなたの家に?」


 驚いた……姐姐は同居している私を起こさず出かけたのに、ひと手間かけて隣家を訪ねたの?

 豆妹が懸命に説明を続ける。


「外から戸が叩かれて、私が出たの。家人ジャレンは出かけたあとで、家には私ひとりしかいなかった。戸を開くと姐姐が立っていた」


「あら、だけど奶奶ナイナイは? いつも一緒でしょ?」


 豆妹の両親は仕事で不在だったとしても、同居している祖母が一緒にいたはずだが……?


「奶奶はいない。隣村に住む姑母グームーが子供を産んだから、昨日の夜手伝いに出かけて、まだ戻ってない」


 豆妹から見て叔母にあたる人が出産したばかりなのか。


「そうだったの……」雪華は考えを巡らせてから、豆妹に質問した。「訪ねて来た姐姐はどんな感じだった? 奶奶ではなく、あなたが応対に出て驚いていた?」


「ううん」豆妹が首を横に振る。「もともと私に用があったみたい。奶奶が家にいて戸を開けたのだとしても、姐姐は私を呼び出したと思う。『豆妹にしか頼めないことなの』と言ってたから」


「姐姐は遠出する感じだった?」


「そうだね、よそいきの格好をしていたし、大きな荷物も持ってた」


「元気そうだった?」


「うん……でもなんか……いつもと違った」


「どんなふうに?」


「顔が少し強張っていた」


 幼い豆妹が違和感を覚えたくらいだから、姐姐はかなり切羽詰まっていたのかもしれない。


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