第7話 正式に縁談を持ちかけることにする? 何言っているんだ
黙り込む雪華のほうをチラチラと見上げ、熊がまくし立てる。
「な、なんでだよ、雪華は弱いはずだろう!?」
「誰がそう言った?」
「だってお前はいつも燕珠に護られているばかりで――」
それで頼りなく見えたって? 雪華の瞳から感情が抜け落ちる。
「
「趣味?」
熊の声が裏返るのを聞きながら、雪華は感情を抑えて静かに告げる。
「確かに姐姐はなんでもできた。頭が良くて、おまけに強くて……それに甘えて私が何も努力をしてこなかったと……あなたはそう思うわけね?」
「いや、いやいやいや」
必死で否定しているが、姐姐の姿がなかっただけでこれ幸いと力ずくで襲おうとしたのだから、この男がいかに雪華を舐めていたかが分かる。
雪華の心は冷え切っていた。
「この物騒な世の中で、女ふたりで団子屋を営んでいるんだよ――か弱いわけないだろ」
「あ、ああ……そうだよな、分かってる」
「護身術は姐姐にひととおり仕込まれているんだ。むしろ私のほうが強い」
熊の手首をもうひと捻りしてやると、今度は悲鳴も出なかったようだ。
ふたりのあいだにある案の天板に突っ伏し、痙攣しながら荒く息を吐いて耐えている。
それを眺めおろし、雪華は小さく息を吐いた。これ以上続けて、端によけた団子皿をひっくり返されても困るか……。
ゆっくりと手を離す。
その途端、熊は
背を丸めて腕をさすりながら、ためらいがちに口を開く。
「その……お前が怒る気持ちも分かるよ」
「そうですか?」
本当に?
「関係を前に進めようと、急ぎすぎたのは良くなかった……だからその……ちゃんと進める」
雪華は耳を疑った。
予想では「覚えてやがれ」という安っぽい捨て台詞を吐いて、熊はそそくさと去っていくはずだったのに……「ちゃんと進める」というのはどういう意味だろう?
瞬きする雪華は内心ひどく混乱していたけれど、幸いなことに表情はそう大きく動かなかった。
熊がつっかえながら続ける。
「ええとそう……親に頼んで正式に縁談を持ちかけることにする。その、お前も……ちゃんとしてほしいわけだよな? 俺の家には権力がある……お前は正式に俺のものになれて喜ぶはずだ……」
待ってほしい……雪華は背中に冷たい汗をかいた。
こわばる喉からなんとか言葉を押し出す。
「いやあの熊殿――親に頼んで正式に進めるというのはいかがなものでしょう? 私は賛成しかねます」
「賛成しかねます――つまり賛成しかねえ、万々歳だということだな?」
「違うだろ馬鹿」
思わず乱暴な言葉で否定してしまった。賛成しかねますは『賛成しかねえ万々歳』じゃなくて、『賛成の反対』という意味だ。女の尻ばかり追っかけてないで、もっと勉強してくれ。
半目になる雪華に構わず、熊が口を開く。
「あのな――俺は本気で雪華を好いているんだ!」
先ほど腕を捻られて凝りたらしく、こちらの体に触れるほど近づいては来なかったものの、そのぶん瞳に滲む必死さは増しているように思えた。
「……ええ?」
単になびかない女だから、今は狩りの喜びを感じているだけでは?
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