第4話 気まずい男

「この世界はゲームのシステムに則って動いているの。新しいメンバーはガチャを回して加えて行く事になるわ。さぁ、カイム」

 アルラはランプを俺に手渡すと

「このランプはこの後も使い続ける事になるから使い方を覚えてね。まずはモンスターの死体に注ぎ口を向けて」


 俺は言われるままにランプの注ぎ口をモンスターの巨大な屍に向けた。

 すると紫色に光る魔宝石が二個、艶の失せた死体から浮かび上がり、ランプの注ぎ口に気体になって入り込んだ。


「魔宝石の数はモンスターの強度によって変わるの。五個集めれば一回のガチャが出来るわ。カイムが来る前に三個集めていたから、これで新しい勇者が引ける」

 そう説明した後、アルラは片目をつむり

「頑張って、いい勇者をGETしてね」

 と悪戯っ子の様な笑みを見せた。


 この世界で生きていく覚悟を決めたばかりなのに、またサラリーマン時代に引き戻された様な気分になった。


 アルラと同レベルとまでは行かなくともせめてAランク…!


 ランプの取っ手を握って頭の中で念じていると、スマホ画面で何度も見せられた演出が目の前に再現され始めた。

 注ぎ口から黄金色の液体が地面に滴り落ちて行き、脚、腰、腹、胸と人の形が形成され、最後の一滴が出尽くすと、俺の前に一人の若い女性の勇者が姿を現した。


 身長は俺より低いアルラを更に下回る低さで栗毛のセミロングヘア。やや勝ち気ながら同時に甘えん坊の妹を思わせる様な美貌の小顔を俺に向け、皮肉たっぷりに話し掛けて来た。


「どーもっ!残念だったね。アタシを引いちゃって!」


 …ン?…


 いきなり嫌味な台詞を投げつけられた俺は、改めてその若干幼さが残る可憐な顔立ちを見つめ直した。


「…アーッ!き、君は…」

「何よ、やっと思い出したの?」

 栗毛セミロングヘアの勇者は、ロリ調のヴォイスで、俺の顔を半ば呆れながら睨み付けた。

「そうだよね!アタシを引く度に邪魔臭そうに放り投げてたんだから!どーせアタシはアンタにとっては外れキャラですから!」


 何もよりによってアルラ目当てに回し捲っていた時に、邪険に捨てていた娘をここで引かなくても良さそうなもんだが…。

 思わず頭を抱えた俺に、クスクスと笑いながらアルラが近寄って来て、毒づく勇者に優しい口調で言葉を掛けた。


「リリコ、今までの事は忘れて私達と一緒に頑張りましょう。SRでAランクの貴女が加わってくれればとても助かるわ」

 新たな勇者─リリコ─は腕組みをして斜め目線で俺達を睨みながら

「フン、ハイハイ。アンタ達のお邪魔にならない様に後から着いて行きますよ!」

 と言った後、くびれた腰に両手を当て、唇を尖らせて明後日の方向に顔を向けた。


 バツの悪さを隠しきれないまま、まだこの世界の右も左も分からない俺は、アルラに

「これから…まず、どうすれば…?」

 と尋ねた。アルラは少し勇ましさを湛えた顔で

「最初の攻略地であるキユーウ国に行き、そこのラスボスモンスターを倒すのが最初の使命になるわね」

 と言って地平線の彼方に目を向けた。

「つか、カイム、アンタそんな事も知らなかったの?どういうつもりでゲーム始めた訳?」

 リリコが呆れた様子で俺を見た。俺は頭を掻きながら

「イヤ…その…最初はガチャ目的で始めたから…ゲームの概要までは…」

 と気まずい言い訳をした。

 これを聞いたリリコは下等生物を見る様な顔で

「アッキれたぁ!アタシ、こんな奴に外れ扱いされて、邪険にされてたの ! ? もーお、最っ低!」

 と信じられないと言った感じで天を仰いだ。

「でも、最終目的は知っているでしょ?」

 アルラが俺をフォローする様に聞いて来た。

「もっ、勿論!モンスターのラスボスを倒してハーカミラーに平和をもたらす…」

 俺の辿々しい台詞を聞いたリリコは、腕組みをして、見下す様な目付きで

「それも知らないって言ってたら、ブッた斬ってたよ」

 と吐き捨てる様に言った。


 そんな様子を笑顔で見ていたアルラは

「じゃあ、行きましょう。細かい事はこの先を進みながら教えてあげるから」

 と言って、颯爽とした歩みで先頭に立って進み出した。それを見たリリコがフンと言った感じで俺に一瞥をくれてから、アルラの後を追い掛けた。


 先を行く二人を見て俺は慌てて駆け出したが、追い付く寸前で止まり、敢えて前の二人と距離を取った。まだ何か遠慮する様な気持ちがあって、軽々しく近寄る事が出来なかった。


 その距離が縮まるのに、もう少し時間がかかりそうな事を覚悟しながら、俺はハーカミラーの世界へ踏み出した。。

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無課金ガチャでSSRのSランク美少女勇者を引いた俺は、最強の剣を携えて電脳空間で無双する 紫葉瀬塚紀 @rcyo

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