第3話 初戦をこなした男

 土煙を巻き上げながら全身を現した、身の丈五、六メートルはあるトカゲとワニを混ぜ合わせた様なモンスターは、俺達の方に顔を向けると、唸り声を上げ早速襲い掛かる姿勢を見せた。


「カイムさんは初めてだから援護に徹して!」


 アルラは俺に指示すると、素早く剣を抜いて身構えた。すかさずモンスターの左手が彼女を捕獲せんと掴み掛かった。

 間一髪、高々とジャンプし巨大な楓の様な掌から逃れるアルラ。だがモンスターは追撃の手を緩めない。大きく開いた口から発射された白濁色の液体が、着々したばかりのアルラに浴びせ掛けられた。


「危ない!」


 しかしアルラの反応の方が僅かに早かった。

 細くしなやかな腕を前に突き出すと、開いた掌から薄青色の光が発せられ、それがアッという間に傘状のバリヤになって白濁液をハネ返した。

 地面に飛び散った液体から、ジュウジュウという音と共に白い煙が立ち上った。モロに浴びていたら、アルラは骨だけになっていただろう。

 だがモンスターの連続攻撃を防いだ事で僅かな気の緩みが生じたのか、アルラの動きが一瞬止まった。

 そこにモンスターの情け容赦ない第三の攻めが襲い掛かった。


 バシィーンッ!!


 太く長い尾がバリヤを解いたばかりのアルラに叩き付けられ、彼女の体が宙に舞わされた。


「あぁぁぁぅっ…!」


 受け身を取る間もなく地面に落ちたアルラは頭を降って必死に意識を戻そうとしたが、そこに勝ち誇ったモンスターが地面を揺らしながら、ゆっくりと近付いていった。


「アワワワ…」

 危機的状況に何も出来ず、オロオロと見守るだけの状態だった俺の脳内に何者かの声が響いた。


「剣を構えなさい!」


 空耳… ! ?


 戸惑う俺に謎の声が再び命令する。


「剣を構えてその先端を敵に向けなさい!」


 俺は両手に握った与えられたばかりの剣を見つめた。

 …コイツが…語り掛けた…?

 訳が分からぬままに俺は両手で柄を掴み、その鋭い鋒をモンスターに向けた。

 それに呼応するかの様に刃の部分が青白く光り、直視出来ない程の輝きを発した。


「クロ…ス…ト…ライ…ザー…」


 俺の脳内に意味不明のワードが浮かび上がる。有無を言わず唱えろ、と命じているかの様だった。


 気付いた時には無我夢中で絶叫していた。


「クロストライザァッ!行けぇっ!」


 直後に剣の先端から、ゴジラの白熱光を思わせる様な凄まじい光の大砲が発射された。唸りを上げて直進した白熱光砲はモンスターの土手っ腹を直撃すると、アッという間にその胴体を貫き通した。

 天を仰いで絶叫するモンスターの動きが完全に停止した。

 半ば呆然とそれを見守る俺の目に、漸く意識を戻し体勢を整え直したアルラの様子が写った。美しい顔立ちに鬼神の面影を重ね、両手に握った剣を天に高々と突き立てていた。

 その剣の刃が俺のそれと同じ様に眩い光を発し、辺り一面をこれ以上ない位に明るく照らし付けた。


 次の瞬間。


「シュベルハーケンッ!!」


 アルラが鋭い声と共に剣を45度の角度で振り降ろすと、その先からレーザー光線の様な光が放たれた。鋭利な切れ味を思わせる光がモンスターの首の右側面から左側に向けて斜行されると、動きの止まった怪物の首から上が横にスライドし、ゴロンと地面に転がり落ちた。

 そして数秒後に主を失った巨大な胴体がゆっくりと前のめりに倒れ、土埃を上げ地面に横たわった。


「………」


 モンスターの最期を見ながら、俺は白熱光砲を放った状態のまま硬直していた。

 繰り返す様で何だが、数時間前までゴミゴミしたオフィスで書類作成に勤しんでいた男に、いきなりこんな体験をさせて平静を保て、と言う方が無理というモノだ。


 前に突き出した俺の両手に白く柔らかい手が添えられ、ゆっくりと下に降ろして行った。

 気が付くとアルラが天使の様な笑みを見せ、横に立っていた。


「力を貸してくれてありがとう。素晴らしいわ。やれば出来るじゃない!ガチャを引いたのが貴方で本当に良かった…」

 そう言うと瞳を閉じて俺に寄り掛かる様に身を寄せた。強烈な色香が俺の全身を包み込んだ。数時間前までゴミゴミしたオフィスで書類作成に勤しんでいた男に以下略。


 ファーストバトル後、少し時間を経て幾らか気分が落ち着いた俺は、改めてアルラに今後の確認をした。

「もう元の世界には戻れないんだね?」

「ええ…」

 頷くアルラに更に

「いつまで戦い続けなきゃいけないんだ?」

「この世界のモンスターを統治する魔城を落とすまで」

「どれ位かかりそう?」

「そこまでは…。ごめんなさい…」

「この先もずっと二人だけで戦って行くの?」

 この問いにアルラは少し意地悪そうな表情を見せた。

「私とだけじゃ不満?」

「いや…、ホラ、戦力は多い方が…」


 アルラは肩を軽くすくめると、掌を目の高さまで上げ、祈る様に瞳を閉じた。

 すると開いた掌が光り、そこに金色の物体が姿を現した。


 それはガチャを回していた時に飽きる程見てきた魔法のランプだった。

 


 


 


 

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