第2話 戦いを強制される男

「おめでとうございます。サイノ カイム(祭埜 加伊武)さん。ようこそ、カーハミラーの世界へ」 


 事態を飲み込めていない俺に、最強美少女キャラと思わしき娘が、穏やかな口調で言葉を掛けて来た。優しさを漂わせる親しみ易い癒し系のヴォイスだ。

 呆然としてひたすら周囲を見回し続ける俺に最強美少女が

「貴方はガチャで見事一番最初に私を引き当てました。よってカーハミラーの世界で活躍出来る特権を与えます」

 と説明を加えた。


 どゆ事?


 カーハミラーの世界って…。まさかゲーム内の世界?


 俺はその世界に入れられたのか?


 あまりにも信じ難い現実に、尚も俺が戸惑っていると

「私の名はアルラと言います。急な出来事で混乱していると思いますが、カイムさん、貴方はこの世界で私と共にモンスターとの戦いに挑んで貰います」

 と最強美少女が優しい口調でとんでもない事実を伝えて来た。


 イヤ、少し気持ちを整理させてくれ。

 必死に冷静になって、頭の中をまとめた俺は

「つまり…、あのゲームでアンタを無課金ガチャでGETした者は、ゲーム内の世界に無理矢理引きずり込まれて、アンタと共に強制的にゲーム内でモンスターと戦わされる事になる…と…」

 と半ば喘ぐ様な口調で最強美少女─アルラ─に返答を求めた。

「言い方がちょっとアレですが、まぁ、そういう事になります」

 アルラが苦笑いをしながら、俺の問いに答えた。


 残酷な解答だった。

 漫画やアニメでよく見てきたシチュエーションだが、実際に自分がその立場に置かれると、たちまち頭の中が不安と恐怖で満たされて来た。


 後でアルラが言うには、その時の俺は顔面蒼白でガクガクと脚を震わせていたらしい。


 実際仕方ないだろう。転生or召喚ヤッター、なんて血の通っていない空想上のキャラの台詞だ。数時間前までサラリーマンだった人間に、いきなり別世界でモンスター相手に立ち回れ、なんて、常識の範疇を超えている。

「そんなに怯えないでください。貴方用の武器はちゃんとあります」

 アルラが穏やかな表情のまま、腰に差した二本の剣の内の一本を俺に渡した。

「剣一本程度で何とかなるもんなんですか…?」

 これも後でアルラに教えて貰った事だが、その時の俺は泣きそうな声で、すがる様に尋ねていたらしい。

「ただの剣ではありません。それを持つと、自分でも信じられないくらい身体能力が上がり、様々な技が使える様になります」

 それでも不安を払拭し切れていない俺にアルラが近寄り

「安心して下さい。いざとなったら私が全力で貴方を援護します。こう見えてもSランクの勇者ですから。大船に乗った気持ちでいて下さい!」

 と包み込む様な笑顔で言い、優しく俺の肩に手を添えた。


 今までの展開に冷静さを失っていた俺だが、アルラの不思議な抱擁力に気分が幾らか落ち着いて来るのを感じ、ここで改めて彼女の姿を見直した。


 腰まで降ろした金髪に透き通る様な青い瞳。白い肌にモデルの様なプロポーション。その肢体を包む勇者着は、ゲーム仕様のせいもあるが、殿方が望む箇所を程良く露出させている。

 そして全身から発せられる安心感は、頼りたくなる様な母性を感じさせた。


 少し気分が落ち着いたが、まだまだ聞きたい事は沢山あった。


 この世界の概要。

 モンスターの実体。

 このゲームにおける基本ルール。

 etc.etc.……


 俺の気持ちを察したのか、アルラが

「一度に説明すると混乱すると思うので、基本的な説明から始めますね」

 と最初から変わらぬ穏やかな物言いで語り出した。


 その時。


 ゴゴゴゴォッ……!!


 地面が凄まじい勢いで揺れ、俺達から数十メートル離れた場所の地表が大きく盛り上がった。そして、中から爬虫類を思わせる巨大な怪物が、猛々しい咆哮と共に姿を現した。


 この後、嫌という程付き合わされるモンスターとのファーストコンタクトは、最悪のタイミングで訪れた。

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