八、【小四】ごんぎつね

 いたずらもののきつね「ごん」はある日、兵十という男の獲ったうなぎを横取りします。

 後日、ごんは兵十の母親の葬式を見かけ、「自分のせいで、兵十は母親にうなぎを食べさせてやれなかったのではないか」と反省します。

 ごんは兵十の家に栗や松茸を届け始めます。しかし「神様が施しをくださっているに違いない」などと兵十が話すのを聞き、面白くありません。

 翌日、また栗を持っていったごん。兵十はごんが盗みを働きにきたと思い、火縄銃で撃ってしまいます。そこでようやく兵十は、栗を届けていたのがごんだったのだと気付くのでした。


 ■


 愛好家の方も多い作家さま、そして世界的にも有名な作品です。


 読み始めてすぐ気付くのが、情景描写の丁寧さです。

 ここまで教科書に載ってきた作品と比べても、段違いに描写の量が多い。挿絵を見ずとも文章だけで情景を詳細にイメージできるほどに。

 小四の後半(満十歳前後)に求められる読解力の水準がそのくらいだということでしょう。


 本作、非常にやるせないお話です。

 善かれと思ってやった行いが必ず相手に伝わるとは限らないし、また良い結果を生むとも限らない。

 こうしたことは現実世界でも結構あります。皮肉な結末の物語ですが、重めのリアリティを感じます。


 ごんは、罪悪感から兵十へ栗を届け始めます。そもそもその罪悪感も、ごんが一方的に兵十の事情を想像して抱いたものでした。

 だとしても、「神様のおかげ」などと思われたら面白くない。相手に認められたいという欲求は生々しく、人間味があります。

 最後、兵十が自分のことに気付いてくれて、ごんは嬉しかったのではないでしょうか。撃たれてしまったけど、やっと自分を認識してくれた、と。


 一方の兵十はどうでしょう。

 どうしてごんは自分に栗を届けてくれていたのか。早計なことさえしなければ、その答えを本人から聞けたかもしれないのに。お礼だってちゃんと言えたかもしれないのに。

 もしこのままごんが命を落としてしまったら、兵十の心には深い後悔ばかりが残るはずです。


 決して交わることのない二つの重い感情——

 このしんどさ、いとをかし。


 物語としてはバッドエンドですが、ごんが怪我から回復する可能性もあるでしょう。そうなれば、ふたりは良い関係を築けるかもしれません。

 想像や解釈の余地があるところも、本作の魅力の一つですね。




作・新美南吉、絵・かすや昌宏『ごんぎつね』 光村図書『国語四下 はばたき』2022年発行版 p.12〜29

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