五、【小三】ちいちゃんのかげおくり

 太平洋戦争終期。

 父親の出征前日。ちいちゃんは「かげおくり」という遊びを教わり、家族四人で影を青空に映します。

 しばらくして空襲があり、避難の折、ちいちゃんは母や兄とはぐれてしまいます。周りの大人に助けられ、焼け落ちた自宅跡へ戻った彼女は、防空壕で数日を過ごします。

 飢餓で朦朧としながら、一人きりでかげおくりをするちいちゃん。小さな魂はそのまま天へと昇っていき、空色の花畑で家族と再会します。


 ■


 このお話で「かげおくり」を知った人は多いでしょう。実際にやってみたという人も。

 やり方は簡単です。晴天の日、自分の影を瞬きせずに十秒間見つめてから空を見ると、影の残像が白っぽく空に映って見えるというもの。影の濃い日ほどしっかり映ります。


 本作を学習した小三当時、「哀しい話だな」「ちいちゃんがかわいそう」と感じた覚えがあります。

 これを大人になってから、とりわけ親の立場で読み返すと、違う感想が出てきます。

 「我が子がちいちゃんのような目に遭ったら」と。

 まだ小さいのに、怖くて寂しい思いをして、一人ぼっちで、お腹を空かせながら、何より大切な命を散らしてしまうなんて。

 考えただけで胸が詰まります。


 ラストの、ちいちゃん一人のかげおくりのシーン。

 十秒を数える声に、兄や母、そして父の声が重なっていきます。四人で最後にかげおくりしたあの日のように。

 そうして、ずっと会いたかった家族とようやく再会するのです。青い空の上で——


 上の子の音読一回目で号泣した母は私です。子はドン引きし、以降この話を音読しなくなりました。

 筋を知っていると、冒頭の家族のかげおくりの時点でもう泣けてきます。

 家族四人のささやかな幸せの情景があったからこそ、一人になったちいちゃんの姿と対比になり、これ以上ないほど涙を誘うのです。


 幼い子供が戦争の犠牲になる。今も世界のどこかで起きていることなんですよね。

 悲劇は二度と繰り返されるべきではない。平和の中で育っていく我が子らを見て、心からそう思います。


 それにしても、この「かげおくり」という遊び、なんとなく暗示的です。

 この世に存在しているからこそ生じる自分の影を、空へと送る行為。

 「死」を予感しませんか。

 それに気付いてから、少し怖くなりました。




作・あまんきみこ、絵・上野紀子『ちいちゃんのかげおくり』 光村図書『国語三下 あおぞら』 2024年発行版 p.14〜27

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