四、【小二】スーホの白い馬
モンゴルに住む羊飼いの少年スーホは、生まれたばかりの白馬を拾います。彼らは共に育ち、心を通じ合わせます。
ある時、殿様の開いた競馬大会で、白馬に乗ったスーホが優勝します。殿様は立派な白馬を気に入り、スーホから力ずくで奪い取ります。
殿様の隙をついて逃げ出した白馬は、矢を射かけられながらも、スーホの家に辿り着きます。しかし傷は深く、白馬は死んでしまいます。
嘆き悲しむスーホは白馬の夢を見ます。その夢に従い、スーホは白馬の骨や皮や毛を使って弦楽器「馬頭琴」を作るのです。
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馬頭琴というモンゴルの伝統の弦楽器にまつわるお話です。
まず言えるのは、これが不条理な世界の話だということ。
悪者である殿様は、罰を受けません。憤りすら覚えます。この暴君こそ酷い目に遭えばいいのに、と。
小二で学ぶ本作。もしかすると、人生で初めて触れる「勧善懲悪ではないフィクション」となり得るのかもしれません。
残酷なことに現実においても、踏み付けられるのは常に弱者です。
最も心を揺さぶられるのは、白馬が殿様のところから逃げてくるシーンです。
白馬はいくつもの矢傷を負いながら、大好きなスーホの元へと必死に走ります。痛かったでしょう。苦しかったでしょう。だけど、どうしても一目スーホに会いたかったんですよね。
なぜ、こんなことになってしまったのか。思わずスーホに感情移入します。この悔しさや哀しみが癒えることなどないのではないかと感じるほど。
スーホの夢枕に立ち、自分の体を使って楽器を作るように告げた白馬。
「そうすれば、わたしは、いつまでもあなたのそばにいられますから」
死してなお、白馬の魂はスーホと共にあるのです。
全体を通して、大草原を駆け抜ける風を感じるお話です。
スーホが馬頭琴を奏でるラストシーンの情緒がまた、とても素晴らしいのです。ハッピーエンドでないからこその余韻とも言えます。
楽しかった遠き日々、不条理への憤りと後悔、喪失の深い哀しみ、それでもなお続いていく人生——
風に乗って草原に響く馬頭琴の旋律。さまざまな想いを乗せたその音色が、聴こえた気がしました。
作・大塚勇三、絵・リー=リーシアン『スーホの白い馬』 光村図書『こくご二下 赤とんぼ』 2023年発行版 p.108〜123
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