二、【小二】スイミー
赤い魚の兄弟たちと一緒に暮らす、一匹だけ真っ黒で泳ぎの得意なスイミー。しかしまぐろに襲われ、兄弟みんな食われてしまいます。
ひとりぼっちになってしまったスイミーは、おそるおそる広い海を泳ぎます。そのうちに素晴らしいものとたくさん出会い、だんだんと元気を取り戻していきます。
そして、自分の兄弟とそっくりな魚たちを見つけます。
怯えて隠れていた彼らですが、みんなで一匹の大きな魚のように泳ぐことで、怖い魚を追い出すことに成功するのです。
■
説明不要の名作ですね。
「ぼくが、目になろう」というスイミーのセリフが印象に残っている人も多いかと思います。
小さな者たちが力を合わせることで、大きな者にも打ち勝つことができる。
シンプルながら、前向きで力強いメッセージです。
改めて読み返して素晴らしいと感じたのは、文章表現の豊かさです。
特に、スイミーがひとりで広い海を泳ぎ進んでいくシーンの描写。
谷川俊太郎さんの訳文の絶妙さもあるでしょう。ハッとするほど美しく、きゅっと心に引っかかる言葉選びがなされているので、ぜひみなさんに読み返していただきたい。
文章を追うだけで、スイミーが目にした景色を追体験し、その驚きや感動までをも共有できるような、色とりどりの世界が展開していくのです。
兄弟たちを失ったスイミーにとって、海は怖くて寂しくて哀しい場所でした。
だけど、それだけじゃない。
スイミーは、世界の広さを知ったのです。
この場面は起承転結の「承」に当たる部分です。
ここがあるからこそ、続く「転」と「結」に説得力が出る。
一匹だけ真っ黒で泳ぎの得意なスイミーは、謂わば生まれついての特異個体だったのでしょう。
だから、ひとりだけ生き延びてしまった。
だけど勇気を出して前へと進み、世界に光を見出して、新しい仲間を見つけた。
これからは、みんなと一緒に生きていく。
彼らの前に広がる素晴らしい世界が、私の目にも眩しいです。
そしてこの名作に関して、何より驚くことなのですが。
なんと、全文で810文字程度です。
すごい。
谷川俊太郎さんの遺された数々の名文に感謝し、心よりご冥福をお祈りいたします。
作絵・レオ=レオニ、訳・谷川俊太郎『スイミー』 光村図書『こくご二上 たんぽぽ』 2023年発行版 p.64〜73
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