第4話 勝者はだれ?

 このことがあってから私は、仕事へ行くのがほとほと嫌になってしまった。


 一番ショックだったのは、同じ母親である女性からそんな風に見られていたことだ。同じ立場で味方だと思っていた人にすら理解されないなら、一体私を理解してくれる職場などこの世に存在するのだろうか?


 そのあとも色々とあったのだが長くなるので割愛する。


 私は、会社へ向かう電車の中で、本当に胸が重たくて、息苦しさに動けなくなってしまった。会社へ行くことを考えるだけで鬱々とした。


 そんな風に自分が思われていたと知って、そんな職場に笑顔で行けるほど私はまだ人間ができていなかった。

(今なら鼻くそ飛ばしてやるわっ!)


 ただでさえ休んでいる負い目があるのに、これ以上の責め苦はないだろう。


 その後、私は常務と上長へ相談した。

 私と春日局は、一人ずつ呼ばれて常務に事のあらましを語った。


 要するに、春日局は、私がよく子供の病気で休んでいる理由を、土日に子供をあちこち連れ回して夜遅くまで寝かさないでいるんじゃないか、と周囲に言いふらしていたようなのだ。


 そんな勝手な憶測を真に受けて、ムーミンが私に事情聴取をしたというわけである。それが〝体裁〟の正体だ。


 うちの夫がムーミンへ電話で「ありすも本当にがんばっているので」と言い添えてくれたこともあり、ムーミンの心象は取り戻せた……と思う。


 夫は、昔一緒に同じ職場で働いていたこともあり、ムーミンとは私も含めプライベートでも遊ぶ仲だった(それなのにムーミンめ!)。


 正直私は、会社を辞めることも考えた。

 夫も、そんなにしんどいなら辞めてもいいよ、と言ってくれた。


 でも、ここで私が仕事を辞めたら、春日局に負けたことになるのでないか?という思いが私を踏み留めさせた。


 確かに私が休んだことで職場の人たちに迷惑をかけた。

 私自身、もっと周囲へ声を掛けて気を配るべきだということを学んだ。


 でも、それと私の正当な権利(年休取得)は全く別物だ。

 子供や家庭のことまで他人にあれこれ憶測で言われる筋合いはない。


 母親業は若葉マークだが、私なりに必死で毎日を生きていたのだ。

 ほぼワンオペで!

(※相変わらず夫は仕事が忙しかった。)


 誰にも文句は言わせない。


 それから私は、春日局チームを抜けて、他のチームへ異動した。

 異動といっても、同じ課内にある運用チームから開発チームへ移ったというもので、私の以前からの希望でもあった。


 春日局とは、それきり関係を絶っている。


 それからしばらくして、春日局は、異動先の部署で何かをやらかしたらしく、会社を出禁になった。


 それまで春日局があちこち職場を変えていたのにも、もしかしたらそういう理由があったのかもしれない……と考えるのは、やめておこう。


 つまり彼女は、周囲と問題を起こすトラブルメイカーだったわけだ。


 それから数年後、私は他の会社へ転職をするのだが、春日局が出禁になった会社にずっと必要とされて働いていた。


 さて、勝ったのは、どちらだと思いますか?



 こうして母親とは、強く、強くなっていくものなのです。



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