第7話 運命を刻む光
女性が手にした巻物は、何か特別な意味を持つもののようだった。彼女は指で文字を辿りながら、時折母親に向かって言葉を発する。その声は冷静で、どこか重みを感じさせる。母親は緊張した面持ちで頷きながら話を聞いていた。
「……これ、私のことを説明してるの?」
赤ん坊の体では何もできないもどかしさを抱えながら、私はただそのやり取りを見つめるしかなかった。けれど、女性の鋭い視線が私の存在を見逃していないことだけは、嫌というほど感じられた。
やがて、女性は巻物を閉じると、棚に戻し、母親に何かを告げた。母親は少しだけ困惑した表情を浮かべ、私をそっと抱き直した。その間も女性の視線は私に注がれたままだ。
「なんでそんなに見つめるの……」
その目には単なる好奇心だけではなく、何か別の感情――警戒や驚き、あるいは恐怖のようなものが混ざっている気がした。それは、私自身も知らない「何か」が、この世界にとって異質な存在であることを示しているようだった。
その時だった。私の体の中で再びあの温かい感覚が湧き上がる。それは、まるで自分の存在を主張するかのように私の指先から青白い光を放ち始めた。
「また……この光……!」
光は淡く、揺らめきながら周囲を照らしている。母親は驚いたように息を呑み、女性も目を見開いたまま私を見つめている。
その光が消えた後、女性は一言も発せずに席を立ち、再び棚から別の巻物を取り出した。彼女はその巻物を開くと、先ほどよりも速いペースで文字を指差しながら母親に説明を始めた。
母親はその説明に驚きと戸惑いを隠せない様子だった。時折首を横に振り、何かを反論するように口を動かしている。それでも女性は落ち着いた様子で説明を続けている。
「これって……私が原因だよね……」
二人のやり取りが続く間、私はどうしようもない罪悪感と不安に襲われていた。自分がこの光を持つことで、彼らに何かしらの負担をかけているのだという実感が、嫌でも伝わってくる。
数分後、女性が母親の肩に手を置いて何かを言うと、母親はしぶしぶ頷いた。そして、私を抱き上げたまま女性に向き直ると、深く頭を下げた。
その場の空気が変わったのを感じた。女性は微笑むことなく、ただ静かに母親を見つめ返している。二人の間には言葉には表せない何かが交わされているようだった。
家に戻る道すがら、母親はずっと黙り込んでいた。私を抱える手には少し力がこもっており、その不安と緊張が直接伝わってくる。村の住人たちは私たちを見て何かを囁いているが、それが何を意味するのかはわからない。ただ、彼らの目が私に注がれるたび、母親の手がさらに私を守るように抱きしめるのがわかった。
「ごめんね……」
心の中でそう呟いた。私がこの光を持たなければ、こんな緊張感に包まれることもなかったはずだ。
家に戻ると、父親が不安そうな顔で出迎えた。母親が短く彼に何かを伝えると、父親の表情がさらに険しくなる。その後、二人は私を布に包み、寝床に寝かせると、別室で長い話し合いを始めた。
彼らが何を話しているのか、内容はわからない。それでも、その声のトーンと、時折聞こえる母親の不安そうな声色から、私に関することが議題になっているのは明らかだった。
眠りにつくまでの間、私はただ天井を見つめながら考えていた。
「この光は何のためにあるの……?」
私が持つこの力が、この家族に何をもたらすのか。まだ幼い体の私は何もわからず、ただ時が過ぎるのを待つしかなかった。
リオナの転生:失われた時代と魔法の記憶 桓譲 @sometime0428
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