裏の裏

ゲームとかで聞く「裏世界」って分かりますか?

壁にめり込んだりして入り込んでしまうアレです。

今回はそういうお話です。


僕の友人に高橋という方がおります。

僕もそうなのですが、所謂バイク乗りというやつで、よくツーリングに出かけていました。

ある日、そんな高橋くんが交差点で事故を起こしたと聞きました。

僕の近辺ではそれが結構な話題になりまして、もちろん心配にもなります。

ですが、高橋くんと連絡を取る手段はLINEしかなく、メッセージを送っても電話をかけても反応がありませんでしたので、僕はしばらくの間、事故でスマホがダメになったのかな、なんて思っていました。

共通の友人も何人かいましたので、いつかまた会えるだろうと楽観的に考えていました。


その事故から1ヶ月ほど経ったころでした。

僕の住んでいる部屋のインターホンが鳴りました。

玄関のドアを開けてみれば、そこには高橋くんが立っていました。

幸い、高橋くんの見た目には傷等もなく、僕が最後に見た姿のままでした。

「久しぶり。大丈夫だった?」なんて言いながらとりあえず部屋に通しました。

高橋くんは苦虫を噛み潰したようななんとも言えない表情をしていました。

僕は少し機嫌が悪いのかなと思って「お見舞い行けなくてごめん、連絡つかないし、どこに入院してるかも知らなかったから。」と彼の機嫌をとる様な言い訳をしました。

高橋くんは「いや、いい。」と困った顔をして言いました。

それから僕たちは少しお酒も飲みながら、軽い近況報告の様な会話をしました。

僕が冗談混じりに「バイクはまだ乗ってるの?」と聞くと、彼は苦笑いをしながら「いや前乗ってたやつはおしゃかになったから、もう乗ってない。」と言っていました。

僕はそんな高橋くんの様子に少し安心しながら「でも、痕とか残らないで良かったよ。」と言いました。

その時でした。

高橋くんが突然立ちあがりました。

いきなりのことだったので、僕はかなり驚きながら「どうかした?」と彼を見上げながら聞きました。

彼は無言で僕のベッドを見つめていました。

不思議に思いながら、僕も彼に合わせて立ちあがりました。

そこで僕ははたと気が付きました。

ベッドが、というか部屋の様子がどうもおかしいのです。

まずベッドなのですが、確かに僕のベッドなんです。

でもどこか違和感がありました。

まるで、国境の境目を見ている様な感覚でした。

そこに見えない境目があるのです。

そして、高橋くんもそれを見つめていました。

部屋を見渡すと、至る所にこの境目のようなズレがありました。

僕は「高橋くん、これ分かる?」と境目を指さして聞きました。

高橋くんは首を横に振りながら、「触ってみれば?」と言いました。

僕はその言い方に生贄にされたような感じがして、「高橋くんも触ってよ。」と言いました。

高橋くんは「いいけど。」と渋々と言った様子で触りました。

僕も触りました。

体がめちゃくちゃに引っ張られて、思わず目を閉じました。

開くと僕は空を飛んでいました。

高橋くんはいません。

どこかも分からないところを飛んで、雲を突き抜けました。

そして、浮遊感と共に体がビクンと震えました。

目を開けると、僕はコンクリートの地面に倒れていました。

遠くで救急車の音が聞こえました。

僕はヘルメットを脱いで、車酔いをさらに強くしたような強烈な気持ち悪さに耐えながら辺りを見ました。

車が一台停まっていました。

そしてたくさんの人が僕を見ていました。

高橋くんもそこにいました。

高橋くんが僕の方に駆け寄ってきて何か言おうとした瞬間、高橋くんの足が地面にスボリと沈みました。

そして、ゲームのバグの様な挙動をした後、地面に沈み込んでいきました。


その日、僕は高橋くんとツーリングに出かけていました。

そして帰り道で事故に遭いました。

高橋くんは直撃でした。

僕は転けただけだったので、ほんの一瞬意識が飛んでいただけでした。

そのあと僕は病院で検査を受けたのですが、とくになにもありませんでした。

高橋くんは亡くなりました。

僕が1ヶ月ほど過ごしたあの世界の記憶は今はもうほとんどありません。

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正夢 大鐘寛見 @oogane_hiromi

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