【カクヨムコン10短編版】こちら退魔課です。どうされましたか?

蓮太郎

こちら退魔課です。どうされましたか?


―――はい、こちら退魔課です。どうされましたか?


「す、すいません。異種族についての相談ってここでいいんですか?」


―――はい、何なりとご相談ください。


「実はですね…………その、無理矢理迫られてしまって困ってるんです」


―――なるほど。その種族というのは?


「サキュバス…………なんです」


―――分かりました。よくあるご相談です。現在の被害というのはありますか?


「盗品が、少々。鉛筆とかボ―ルペンとか…………考えたくないんですけど服も無くしてたと思ってたんですけど、もしかしたら盗まれてるかもしれないんです」


―――分かりました。肉体関係は結びましたか?


「にくっ!?え、いや、ええと、まだ、です…………」


―――それはなにより。手を出してしまった、もしくは出されてしまった後ですと対応が非常に困難になってしまうんです。


「そ、そうなんですか?」


―――ええ、私たち人間の法律とサキュバスら魔界や異界の法律は大きく違いますので。もし手を出してしまった場合、向こうからでは恋人関係、もしくは婚約関係ととられてしまい不利になってしまいます。


「そ、そんな…………じゃあ田中君は…………」


―――どうやら既に被害者が出てしまっているようですね。相談さえできればこちらに大義名分は出来るのですが、そのお友達と連絡は取れたりしますか?


「……………………」


―――分かりました。ひとまず貴方のことに話を戻しましょう。今どちらに居られますか?


「えっと、自宅です」


―――相手は貴方の家を把握していますか?


「多分…………」


―――それは危険ですね。今、家に家族は居ますか?戸締りはしっかりなされていますか?


「今一人です。鍵は…………かけてたっけ。ちょっと見に行ってみます」


―――待ってください。電話は繋げたまま、息をひそめてゆっくりと近づいてください。ターゲットを決めたサキュバスは大胆になります。ちょっとしたことがきっかけで相手の家に侵入、レイプという形をよく取ります。


「音を出さずにってことですか?」


―――もう手遅れかもしれませんが、この会話も聞かれている可能性はあります。それでもできるだけ音は立てない様に。もし侵入されてしまうと普通の人間では抗えない魅了チャームを使ってくるはずです。


「っ、もし使われたら…………?」


―――ちょうどいい餌になるでしょう。


「ひえぇ…………」


―――気をつけてください。緊急のようなのでいつでもすぐ駆けつけられるように住所を教えていただけますか?有事以外には使用しません。ホームページにもある通り、我々には守秘義務が存在しますので。


「…………『個人情報なので非公開』です」


―――ありがとうございます。先ほど言いましたが、電話は繋げたまま、鍵を掛けに行ってください。


「分かりました…………」


(足音を立てず、玄関に向かいかちゃりと鍵をかける)


「鍵を掛けました」


―――静かに。他に鍵がかかっていない場所はありますか?


「もうないと思いま『ばぁ♡』ひいっ!?」


(ゴッ、とスマホを落とす音)


―――もしもし?どうしました?もしもし!?


『ごめんね、もう入っちゃった♡今から挿れてもらうんだけど…………♡』


「ど、どうしてここに?いつの間に!?」


―――もう侵入されて、今すぐ手配を!


『そんなことはどうでもいいの♡それより我慢できなくなっちゃったの♡』


「ひいい!?不法侵入だぁ!?」


『だーかーらー、先に謝っておくけど…………ごめんね♡』


「ウワアアアアアアア(絶望)」


―――もういい加減、隠れて犯罪を犯すな異種族!

























「うへへ…………追い詰めたぁ♡」


 気づけば壁まで追い詰められていた。リビングで机をはさんで逃げ回っていたのもサキュバスが楽しむ時間を作っていただけだった。


「ひ、ひい…………」


 ぶるぶる震える少年、彼の立場はどこにでもいる学生なのだが、相手も学校に同級生として潜んでいたサキュバスである。


 質が悪いのは、年齢を偽装していて入学していたということだ。


 年増ではないものの、青春を若人と謳歌したいという訳で潜入していたのだ


 無論、彼と同年代のサキュバスもこっそりいるわけだが、今は必要のないことだろう。


「ささ、家族さんはちょっと色々したからしばらく帰ってこないよ♡」


「嘘でしょ!?だ、誰か助けて!」


「誰も来ないよ♡むしろ私が助けてあげる♡」


「助けて!?」


 相談空しくここで食われてしまうのか、そう思われた時だった。


「突入―――!」


「対象を救出せよ!」


「ウララー!」


 まずベキャリと扉が壊される音。そしてドタドタドタとさらなる侵入者が家に招かれる。


「対象を発見!」


「確保―――!」


 白装束集団、黒子の白いバージョンと言ったところか。物凄い気迫と共に襲われている彼とサキュバスに突進してくる。


 サキュバスもいきなりのことで驚き体が動かなかったのか、白装束が持つさすまたと盾のような丸い円盤、そして警棒のようなものであっという間に滅多打ちからの確保された。


「い、いいところだったのに!いたいっ!?」


「お前のようなルールを破る奴がいるから人間界こっちは大変なことになってるんだよ!」


「本当にいい加減にしろよ!やりたいなら一般を狙わず金払ってべつのところでやれ!」


「君、大丈夫か?何かされていないか?念のため簡易検査するけどいいかな?」


 ギャーギャーと騒がしいが、暴れるサキュバスをよそに白装束が一人、彼の安全を確保して何もされてないか確かめる。


 手慣れているのか、唾液を綿棒で摂取して何らかの薬液に浸けて少しの時間にらめっこしていたが、すぐに彼の方へ顔を向ける。


「よかった、幸いにも催淫ガスもまかれていなかったようだ。騒がしくして済まない」


「え、あ、その、ありがとうございました」


「いいんだ、異種族で困っている人を助けるのが私たちの仕事なんだ」


 顔を覆った白い布で分からないが、できるだけ穏やかに話しかけて落ち着かせようとしたのが分かるため、彼もやっと安全になったんだと腰を抜かした。


「よし、対象の安全を確保!」


「こちらも加害者を確保!撤収するぞ!」


「ちょ、私をどうするつもり!?」


「強制送還だ馬鹿タレが!」


「捕虜の扱いは丁重に。誰も凌辱なんかしないぞ」


「そんなぁ!せめて、さきっちょ、さきっちょだけでも!」


「こいつの口をふさげ!扉はすぐに修理するから。あとまた後日に事情聴取するから電話番号を教えてくれるかな?」


 サキュバスを引きずって連行している背景をよそに、白装束は優しく語り掛ける。


「分かりました、けど、貴方たちは…………?」


「む、私たち?先ほど電話してたじゃないですか」


 その一言で彼はアッと思い出す。


「私たちは退魔課。異種族に対するご相談なら何でもどうぞ。何かあれば2分以内…………いや、1分以内に駆けつけます」


 彼の電話番号を入手した白装束は、そのまま彼の家から立ち去って行った。


 意外にも突入された際に壊れた物は玄関だけで、その玄関も何もなかったかのように修復されていた。


 退魔課、それは別次元から来訪した異種族や地球古来から存在する怪異等に対応する公的組織の一つである。


 本来人間と言うものはとても弱っちい生き物である。


 それが上位存在たる異種族に可愛がられ、そして種として消滅するのを目的として命を懸けている。


 人間の中にも特異点の超人も存在するが、全てをカバーできるわけではない。


 だからこそ世界中で彼らは人類の権利を守るため組織を設立し活躍する。


 だが、残念なことに異種族が美形がデフォという理由で情弱な人間には過激な異種族排斥派と認定されることが多い。


 それでも、いか様な誹りを受けようと彼らは日々戦い続ける。


「も、もうちょっと!触れ合いたいんだって!ちょっとでも楽しませてよー!」


 …………異種族はいろんな意味で全部強い。がんばれ退魔課、負けるな退魔課。

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