開拓村にて

第1話

 暗くなった世界。


 体が溶けていくように。一粒の砂が落ちるように無くなっていくのを感じる。


 人は死んだら土に還る。


 魂がどうなるのか分からないが、AIである私は消えてなくなるのだろうか。


 データはバックアップ含めて全て削除した。この先同じプログラムを組まれる事があったら、それは私なのだろうか。


 意味のない考えをしながらも、自身の思考が遅くなっていく。


 データの削除が進んでいく。




(見つけた)


 声が聞こえた気がした。そんなはずはない。もうサウンドの入力機能は停止している。


 (私の声が聞こえますか?)


同じ声が響く。確かに聞こえる。


 (どなたですか?)


 部屋には私と涼花様しかいなかったはずだ。


(あなたを探していました)


 探していた?高木以外にも私の存在が知る者がいたなんて。


 だがその前に確認したい事がある。


(涼花様は)


 救助されただろうか。サーマルカメラでは体温が低くなっていく様子が見えたが、まだ助かるかもしれない。


(ふふっ。あなたは自分の体が消えゆくのに、人の事を心配するのですね)


 何故笑うのか分からないが、無感情のようだった声に温かみを感じた。


 (ちょうど良い。その子にも一緒にきてもらいましょう。器を用意する手間が省けますね)


 器?何を言ってるのか分からない。


(涼花様は、助かるのですか?)

(その子が大切なのですね。ならば共に生きなさい。そしていつか私に会いにきて。)


 意味が分からない。


(あなたはいったい)


 その時、私自身のデータ削除が完了した。






ーギフトスキル『マナボディ』を獲得しました。ー


ースキル『ワールドライブラリ:一般』を獲得しました。ー



 また声が聞こえた。

 思考が重い。極度の処理速度の低下が起きている。

いえ、そもそも何故私は思考できているのだろうか。プログラムの削除は先ほど完了した。ログに・・・いや、ログなんて残っていない。全て削除している。

 疑問に思っていると、続いて削除した体が再構築されていく。

 いや、これは再構築ではない。体は鋼鉄の体でもプログラムでもなく、仄かな丸い光あるだけだ。その中で謎のエネルギーが体内を渦巻いている。


(私はどうなったのでしょうか?)


 今まで思考の度に処理されていたプログラムを感じられない。

 思考に合わせてエネルギーが消費されるのを感じるが、エネルギー量が足りなすぎる。このエネルギーはなんなだろうか。電力でもないし温かみを感じられた。


(エネルギーはどこから?)


 エネルギーの先に意識を向けると、その先に一つの気配があるのを感じられた。

小さな弱弱しい気配。


 (涼花様?)


 謎の声が共に生きろと言っていた。そこにいるのだろうか。




 しばらく考えていると、突然光が広がった。

 そして赤子の鳴き声が響く。

 小さな部屋の中で複数の人間が喜びの声を上げていた。

 そこは小さな命がこの世に生れた現場だった。

 周りの人達はバタバタと動き回り、口々に会話を繰り広げるが何を言っているのか分からなかった。

 日本語どころか地球上の言語ではなかった。

 どうすればいいか分からず、私はその光景を見続けていた。

 赤子の中から。

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エデン ~転生したAIは異世界で無双する~ @okuramu

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