第4話 本性
「で、ミルフィンくんはどう思う?」
「…俺は、彼らは悪魔と何らかの繋がりがあると思います」
「へ!?」
エルディーゼが思わず声を上がる。
「何故だい?」
「…砂糖が…無かったんです。砂糖は『白い悪魔』と呼ばれているんですが、それが無かった…」
「そこから導き出されることは?」
「…まだ情報が少なすぎてわかりません」
軍人が微笑んだ。
「ま、そうだろうね。ゆっくり考えたら良いさ。さて君たち。今から地上に上がるよ。準備は良いかい?」
「地上?僕らが行った時はずっと地下だったと思うんですけど」
「その通り。よくわかったね。実は地下はちと遠回りでね。君たちはもう見習いだから地上に行っても良いと思ってね。では、上がるよ!しっかり歯ぁ食いしばっときな!」
そう軍人が行った瞬間下から突き上げられる感覚がした。
「ただいまより私、ハンニ・エゴロビスチャンと例の三名を載せた番号X42号、地上に出ます!」
「こちら管制室、X42号了解!」
「出ます!」
金属同士が激しくぶつかり合う音が響いた直後、視界が白くなった。
「作戦完了!」
「X42号了解!引き続き次の作戦を続行せよ」
「はい」
白くなった視界が次に捉えたのは空を飛び回る黒い何かだった。そして荒れ果てた耕地、朽ちた家屋、葉のついていない木々も視認できた。
「まさに、『地獄』だろう。君たちはこれを滅ぼすために戦うんだ」
「上等よ」
「あいつらを駆逐するためならなんだって捧げてやる」
「あれって美味しいのかなぁ」
「一人だけ狂人いるけど大丈夫かい…?」
「通常運転ですわ」
「ええ」
「あはは、面白いねぇ」
軍人、ハンニが声をあげて笑った。
「さ、気持ちを切り替えて進もう!まだまだあるからね!」
「そういえば窓に鉄板貼らなくて良いんですか?」
「あぁ。君たちの場合は悪魔から保護するためにつけていたんだが我々は最悪戦えば良い話だからね。それに速度を出すために軽量化したい」
「そうなんですね」
「あ、そうそう。自己紹介を忘れていたね。私はハンニ・エゴロビスチャンだ。よろしく頼む」
「よろしくお願いします」
3人は一礼した。
「さっそく入隊試験についての説明なんだが、まず君たちにはヘリで落ちてもらう!」
「それはどういった目的で?」
「君たちの空中での安定度を測るためだ。なぁに心配することはない試験の前にしっかりコツを教えるさ。その次に剣を持って素振りしてもらう。剣術は才能で九割が決まると言われている。その才能を見極めるのさ。まぁ稀に例外はいるがね…」
「剣なんて振ったことないわよ?」
「大丈夫大丈夫。コツは教えるから」
「それ本当に大丈夫なの?まぁなんとなくフィンは行けそうな感じがするけどモルは…って寝てる!!」
「寝てるの!?マジで面白い子だね!」
どうやらハンニの笑いのツボに入ってしまったらしく、永遠に「ははは」と笑い続けるのであった。
「君たち〜起きて。着いたよ」
ハンニはまずはミルフィンの肩を揺らした。
「んん…はんに…さん…?」
「ぐっすりだったね。無理もない。すまないね。君だけ起こして。申し訳ないが二人を起こしといてくれるかい?ちとやらねばならんことがあるのだよ」
「…わかりました…」
ハンニはミルフィンの頭をわしゃわしゃとかき混ぜて、その場を去った。
「団長本気ですか?彼らはまだ何も知らない子供です!剣すら振ったことがないのですよ!?それなのに地上斬滅作戦に参加させるって!」
「本気だ」
「何故です!?他に入隊を希望している人間で複数回訓練を受けている子たちはいます!」
「彼らは特殊だ」
「特殊…??まぁミルフィンは特殊でしょうね、頭が切れる」
「そういう問題ではない」
「ではどういう問題なんです」
ハンニはため息をつく。
「ミルフィン・ラインデローゼの母、エルビャバの身体構造についての資料だ」
「……、!」
ハンニは目を見開いた。
「わかっただろう。異常に全ての数値が高い」
「だからといって彼もそれを受け継いでいる可能性は…!」
「祖父、曽祖父ともに全ての数値が高い」
ハンニは前のめりになっていた姿勢を正した。
「…つまり彼にもそれが受け継がれているはずだと、いうことですね?」
「その通りだ」
「でも彼は子供です。しかもあんなことがあったんですよ!?」
「時間が無い。もはやこれはもう戦争だ。人間と悪魔のな。他国も同じ状況だからな」
ハンニは言葉を捜したが出てこなかった。
「…それならあの二人はどう説明するんですか!」
「時期にわかるさ」
「…では私も彼らと同じ隊に入れてください」
「それは不可能だ。お前は史上最強の人間なのだからな」
「なら彼らの隊の隊長は一体誰が…!」
「ヘビロス・アンチレーゼだ」
「よりによって何故彼なんです!新兵嫌いで有名なんですよ!?」
ハンニは叩きつけるように言い放った。
「彼が適任だからな」
「どこが…!」
「次期にわかるさ」
団長はそう言うと電話を切った。
「…クソ」
ハンニは舌打ちをした。
「おいお前ら、起きろ」
「んん…」
二人をミルフィンは揺らすが全くもって起きる気配が無い。
「ったくお前らは…寝起き悪すぎるだろ」
ミルフィンは頭を抱えた。まぁもうここまで来たら二人の寝起きの悪さに関しては諦めるしかないのだが。ミルフィンはため息をつくと二人の腰にそれぞれ腕を回し、持ち上げた。
「俺はこの作業を何回すれば良いんだ…」
「ミルフィンくん〜起きたかーい?ってええ!?」
ハンニはミルフィンを見て思わず声を上げた。
「こいつら本当に寝起き悪いんですよ」
「本当に君たち仲が良いんだね。六月に出会ったとは思えないよ」
「仲良いんですか?これって」
ハンニは目を見開いた。
「…もしかしてだけどさ、君、友達いない?」
「……」
ミルフィンは顔を逸らした。
「……安心して、君たち、とてつもなく仲が良いよ」
「そ…すか」
お母さんが言ってたことは本当なんだ。やっぱりお母さんはすごい。
「よし、君たちに部屋を案内しよう。ついておいで」
「おいお前ら良い加減に起きろ!マジで!」
「私たちは仲が良いわよ!」
「そうだよー、砂糖みたいに」
二人はそう言うとミルフィンを押し倒した。
「んなっ!聞いてたのかよ!」
ミルフィンは顔をりんごのように赤く染めた。
「かわいいわね本当に!」
「砂糖みたい」
「アンタはそれしか言ってないわよ」
「マジで聞いてたならさっさと起きろよ恥ずかしいだろうが」
ミルフィンは上半身を起き上がらせた。
「はぁ、もう、あー、なんだ、なんか、あーもう、クソ」
「落ち着きなさいよ〜何なのよ〜」
「なんか、団長?が俺らに話があるみたいだぞ」
「愛の言葉じゃないのね。あんたノリというものを学び直してきなさいよ」
「…なんだ話だ」
「轢くわよ」
エルディーゼはミルフィンを蹴った。
団長室にて。
「すまないな、君たち。急に呼び出してしまって」
「いえ、とんでもありません。どういったご用件で?」
「まずは君たちに自己紹介をしなければね。私はルイス・シャドネトスだ。よろしく頼む。さて、君たちにね、頼みがあるんだ。とても大事なね」
ミルフィンは眉を顰めた。
「…頼み…ですか」
「あぁ。今地上で悪魔による国民の虐殺行為が始まっているのは知っているね?」
「虐殺行為!?そんなの知りません」
「ハンニに言うように言ったはずなんだが…まぁいい」
団長は咳払いをした。
「とにかく、虐殺行為が始まっているんだ。部屋に帰ってテレビを点けると良い。もう一般用のテレビ塔は潰されているから見られないのだが、軍隊用のものはまだ壊されていないからね。話は戻すが、虐殺行為が行われたということはもうこちら側ももう空を飛んでいる悪魔よりも地上の悪魔を優先せざるを得なくなった。
「というか何故地上の方を優先しなかったんです?」
ミルフィンが首を傾げた。
「地上の悪魔は今まで大人しかったんだよ。それに比べて空を飛んでいた悪魔はテレビ塔を壊したり電線を切断したりとなかなかにやらかしていたからね」
「なるほど…」
「ということは私たちはその作戦に投入されるということですわね?」
団長が目を見開いてエルディーゼを見つめた。
「よくわかったね」
「話の流れで大体わかりますわ」
「しかし団長、僕たちはまだ訓練も何もしていませんが」
「それには心配無用だ。10日間の訓練を行う」
ミルフィンは眉を顰めた。
「10日間なんかで訓練が完了するんですか?」
「しないね」
「はい?」
「しないが君たちならできる。期待してるよ」
この世は、こんなにも理不尽なのか。
輪廻の悪魔 アナーキー @cran0424
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