第3話 軍隊

 三人が新生活で少し心を浮かばせている頃、地上は悪魔による攻撃で地獄へと化していた。だが幸運なことに集団疎開は成功した。完了してから悪魔による攻撃が本格化したのだ。政府は対策本部を設置。軍隊もそれに参加しら何が一丸となって対策をとっていた。その中で1番の成果は悪魔の倒し方がわかったことだ。

 神を崇拝している教会に行き洗礼を受け、聖水で洗い流した剣で悪魔を刺す。するとなんと悪魔が倒れたのだ。倒れた悪魔は重要なものとして今もなお、地下倉庫に保管されている。

 「国民の皆様、大変不安に思われておられると思うのですが、どうか我々、悪魔対策部隊を信じていただきたい。そして、教会に行き神に祈りを捧げていただきたい。その力が我々を救うのです!」

同月、悪魔対策部隊が結成。一般人からの入隊の募集も始まった。悪魔という人外に対する不安で気が狂いそうになっていた地上世界の人間はこの部隊の誕生に一筋の希望を見出し、熱狂的になった。

 一方地下世界では変わらぬ生活が送られていた。

「エルちゃんが作るお洋服はやっぱり綺麗ねぇ」

「感謝致しますわ。ヨルおばちゃんのもとても美しいですわよ」

「あら、もう〜褒めるのが上手ね」

「本当のことですよ」

「モルー、お前マジで天才だな。料理」

「それほどでも。僕は美味しいものが食べたいだけなんで!」

「料理人の鑑だぜ」

「本当にフィンくんがきてくれて助かったわ〜」

「逆にこんなしんどいのをし続けてたのマジで尊敬です」

「ありがとう〜。助かります。やっぱり若いって良いわね!」

 いつも通りの生活。では無いけれども三人、いやこの都市に来た子供達はこの生活を楽しんでいた。外が地獄絵図だとは知らずに。

 九月。悪魔との戦いが激しくなり、完全に総力戦となった。男は戦に赴き、女はものづくりに勤しんだ。死ぬかのように全員が働いた。しかし翌月、サラマンジーに正体不明の黒い霧が蔓延し、死者は三十万名に上った。そして、とうとう地下世界にも地獄の手が掛かった。

 「…なんですか。これは」

ミルフィンの手に、白い壺のようなものが乗せられた。目の前には軍人らしき人間が立っている。

「…お母様の…遺骨です」

周囲がどよめいた。

「マフィン…!」

エルディーゼはミルフィンの元に駆け寄った。そしてミルフィンの様子がおかしいことを理解する。当然よ。そんな突然意味のわからないことを言われてすぐに「はい、そうですか」となるわけがないわ。マフィンは人間よ。エルディーゼはミルフィンの肩に手を置いた。

「どういうことですか」

「…悪魔にころされました。守りきれず、申し訳ございません」

周囲が再びどよめく。呟くことは違うが皆ミルフィンを心配そうに見つめている。

「悪魔って…どういうことなんですか、まだ私たちがここに送られる前は死者は一人しかいませんでしたわ」

「総力戦になりました」

「総力戦ですって!?そんな大事になっていたのであれば何故ここには何の情報も!!」

「ここが楽園だからよ」

「らく…えん…」

「最初にフィンくんに言っていたでしょう?ここは楽園だと」

おばあさんが一歩踏み出した。

「フィンくん。ここで一緒に暮らさないかい?お母さんなんて忘れて」

「おばさん…?」

エルディーゼは信じられないことを聞いているような気分になった。モルシャーナが二人とおばさんの間に入った。

「その話はもうちょっと後にしませんー?マフィンの気持ち、まだ整理できてないと思うんで」

「地上のことなんて忘れてしまえば楽に慣れるのに、なんでそこまで拘るのかしら」

「そうだぞお前ら、もう俺たちはここから出ていかないと決めた!」

「皆んな…それ本気なの…!?」

「本気だとも」

「そんな…!!」

エルディーゼが後ろによろめく。

「もうあなた達だけよ。『ここに残る』と言っていないのは」

「ねぇモル、この人達が言っている意味わかる?」

「さっぱりだ。俺たちじゃなんもわかんないよ」

二人が遺骨を抱き締めて黙りこくってしまったミルフィンに視線を向けた瞬間、ミルフィンが目の前の軍人を押し倒した。

「マフィン!?」

しかし二人はミルフィンのただならぬ雰囲気に圧倒され、口を開いたまま固まってしまった。

「教えろ。悪魔を倒すためには、俺は、どうすれば良い」

「悪魔対策部隊に入れ。それが唯一の方法だ。だが一般人からは入隊試験があるぞ」

「やってやるよ。なんだって。母さんの仇を打つためなら」

「それなら電車に乗れ。地上に戻るぞ」

二人は立ち上がった。ミルフィンは壺を大切そうに抱える。

「最終警告だ。これより上は地獄だ。訓練も厳しい。人の死に様もみる。任務中に死ぬこともある。それでも、良いんだな。覚悟は決まっているんだな」

「当たり前だ」

「なら行くぞ」

二人がそう言って歩き出したとき、後ろから呼び止める声が聞こえた。

「待って!!」

「私も行くわ」

「僕も」

ミルフィンが大きく目を開いた。

「なん…で」

「大切な友達のお母さんが殺されたのよ!?黙っていられるわけないじゃない!!」

「僕ら三人はもう一心同体だろう?」

「ええそうよ。変人同士よくお似合いだわ」

「お前ら自分の命かかってるってわかってんのか!?」

「わかってるわよ!でも!あんたの命もかかってる!」

ミルフィンは分からないという風に首を振った。

「お前ら何言ってんのかわかんねぇよ…」

「あんたはね!!寂しやがり屋で、好奇心旺盛で、礼儀正しくて、優しくて、死ぬほど頭が良いから!!人が考えていないことまで考える超すごい人間なのよ!!だから私たちがそばにいてあげないといけないの!!それに!奴隷第一号がご主人様の許可無く他の組織に入ることは許さないわ!」

「それにもう僕らという部外者たちはいられないみたいだしね!!」

地下都市の住人たちが包丁や、石など各々の武器を持ってこちらに走ってくる。

「君たち!!死ぬくらい走れ!!」

四人は一斉に走り出した。

「良いか君たち!!これも訓練の一環だと思え!!」

「はい!!!」

軍人はさすがと言った感じだった。走るスピードがとても早い。そして三人は走るだけで精一杯である何も関わらず軍人はテントを投げたりして住民の足止めでさえもしていた。駅が見え始める。

「本当にここは広いな!笑えてくる!!」

軍人がワ、ハ、ハ、と笑った。

「さあ君たち!この機関車に乗るぞ!!敵はもうすぐそこだ!手こずるなよ!」

「はい!!」

しかし駅に入った瞬間サイレンが鳴り始める。

「!?」

「足を止めるな!!なぁにこれは私たち側のシステムさ」

軍人がウインクをした。

三人が機関車に乗り込み、軍人がハンドルに触る。そして急発進した。

「ふぅ…いやぁ驚いた。まさか襲ってくるだなんてね」

「もう本当に心臓が飛び出しそうだったわ」

「いやぁすまないね。驚かせてしまって」

「本当にですよ…まさかあんな優しかった人たちが…」

「彼らはね…訳ありなんだよ」

「訳あり?」

エルディーゼとモルシャーナが首を傾げた。

「戦中にできたあの村なんだがあそこの住民はちと野蛮な人間でね。いつ蜂起し始めるかわからない連中をあそこに住まわせたのさ。我々は君たちをあそこに送ると政府が言い始めたとき反対したんだが意地でも意見を変えなくてね…」

「待って、あの人たちと言ってることが違うわ!」

「どういうことだい?」

「あの人たち、ダムの建設によって追い出された人々、って言ってたわ!」

「おっと…それは…かなりの嘘をついてるね…。あの人たちはダムなんか一ミリも関わっていないさ」

「あの人たちは何処まで腐っているの!?」

「言っただろう訳ありだと。だから我々は反対したんだよ…全く。無事君たち以外全員洗脳済みだ」

「政府もしかしてグルなんじゃないの!?」

「まぁその筋は否めなくもないな。まぁ我々的には腰抜けで何も考えていない頭お花畑野郎なことを祈るが?」

軍人が眉を上げた。

「それが1番安心ね…この事態においては」

「さて、君はこの事態についてどう考えているんだい?…ミルフィンくん?」

「…」

沈黙が続いた。

「…誰のことよ。この場にミルフィンだなんていないわよ?」

「は?」

「マフィンならいるけど」

「え、ちょっと待って、え?」

軍人が後ろを振り返ってミルフィンを見つめる。

「え、名前ミルフィンだよね」

「そうです。こいつらが勘違いしてるだけです」

そうミルフィンが言った瞬間軍人が吹き出した。

「あははははは!!いやぁ、君たち最高だね!!!中々にイカれてる!」

「こいつらと一緒にしないでくださいよ…」

ゲラゲラと笑い出す軍人、項垂れるミルフィン、そしてわなわなと震えるエルディーゼとモルシャーナ。機関車内はカオスであった。

「なんで言ってくれなかったの!?!?」

「お前らが聞かなかったんだろうが!!!!」

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