あの子を覗いている時、あの子は別にこちらを覗いてはいない
白川津 中々
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俺は彼女を見守っていた。
クラスで8番目くらいに可愛い鮫島さん。18歳A型132cm体重非公開。目が細くて癖毛がコンプレックス。オタク趣味でカーストは低いが別にいじめられているとかはなく高位の女子達とも普通に話しをしている。頭はよくない。SNSアカウント(裏アカ含む)は把握済みでたまにいいねリポストを送っている。
彼女を見守るようになったのは単純に「俺でもいけんじゃね?」と思ったからだ。突出して顔がいいわけでもなくオタクといういかにもなキャラクター性が地味メンの心をくすぐる。俺だけが彼女の魅力を知っているよムーブが心地よいのである。はっきりいっちゃえば付き合ってその先に進みたい(結婚とかはしたくない)しそれが望めるレベルの女だと認識しているのだ。
だが一歩踏み出せない。やはり告白というのは勇気がいるもの。こちらからは切り出しづらい。というか話しもできない。女の声と俺の声が交わる姿が想像できない。どうしたら仲良くできるんだ。誰か教えてくれ。
そんな風にまごついていると鮫島さんに彼氏ができてしまった。相手はクラスのフツメン棚橋。ふっざけんな。どこがいいんだよあんな奴がよぉ。絶対俺の方が鮫島さんの事分かってんのにマジでなんなんだよ。SNSに幸せそうなポストしやがってマジでぶちころがすぞ。あーなんかやる気なくなった。滅べ地球。
と、なっていると別れた。やったぜ。しかし相変わらず接点がない。どうやって仲良くなるんだ分からねぇ。高校も卒業しちまったしますます無理だろ。成人式で思い切るしかねぇ。2年後、2年後が勝負だ。
と思ったら結婚しちまったわ俺。なんかできちゃったわ子供。人生の一番楽しい時間を全部家族のために使わなきゃいけないわ。でもそんな人生もいいと思う。がんばろ。
鮫島さんが地下アイドルになった。うっそだろお前何考えてんだよ行くよライブ。嫁には内緒で参戦してチェキ取るよ手でハート作ろうなズナフーシちゃん(芸名)。
そんなこんなでライブ当日。半端なパフォーマンスと微妙な客入りの如何ともし難いステージが終了。フレンドタイムという名の集金時間がやってきた。お目当てはもちろん鮫島さんである。
「あの、鮫じ……ズナフーシちゃん」
「こんにちズナ。今日は応援おりがとうフーシ。チェキる?」
「……お願いします」
鮫島さんは俺の事など覚えていなかった。
当たり前だ。高校の頃は、話した事もなかったのだから。
初めての会話。
初めての接触。
思っていたよりも、いや、思っていた以上に、鮫島さんは普通だった。
なんだか夢が覚めたような思いがする。これで吹っ切れた。明日からは家族のため、俺のために生きていこう。そう、決意した。
が、チェキが見つかり修羅場。離婚危機である。
くそ、捨てりゃよかった!
あの子を覗いている時、あの子は別にこちらを覗いてはいない 白川津 中々 @taka1212384
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