誰がために花は咲く~とある吸血鬼の愛~
雪月すず猫
第1話
ルゥイ:(M)私を生かすために差し出されたとくとくと温かく脈打つ首筋に、飢えきって理性を失くした私は、絶望の声をあげながら、その肌を噛み、馨しい(かぐわしい)血の香りに酔いながら、泣きながら飢えを満たす。まるで、乾いた土が水を欲するように。
ルゥイ:(M)―――何故、こんな事になったんだ!?
ルゥイ:(N)十五年前
0:ミーファ、五歳
ルゥイ:「お前が今回の贄(にえ)の娘か。(気だるそうに)」
ミーファ:「は、はい…(泣きじゃくりながら)」
ルゥイ:(M)その涙しながらも、凛とした鈴のような声に、焔(ほむら)のように灯る好奇心が芽生えた。
ルゥイ:「―――おいで、まだ、殺しはしないから。お前が、二十歳になるまではお前は私の娘だよ…」
ミーファ:「(ルゥイに頭を撫でられながら)―――本当に?お父様になってくださるの?」
ルゥイ:「―――そうだよ―――」
ルゥイ:(M)十五年前の凍りそうな冬。
ルゥイ:(M)小さな温もりを抱きながら、芽生えた小さな疑問にそっと目を伏せた。
ミーファ:(M)―――抱きしめても身体は温もりを与えられることはなかったけど、美しい微笑みと優しい抱擁(ほうよう)に、全て委ねようと思いました―――。
ミーファ:(N)数日後
ルゥイ:「名は?」
ミーファ:「み、ミーファと申します」
ルゥイ:「どもるなんて、お前の本当の名か?」
ミーファ:「は、はい…」
ルゥイ:「マッサージはもう良(よ)い。こっちへ来なさい」
ミーファ:「はい、あの、城主(じょうしゅ)様は、贄の娘の名前とか、全てに興味を持たないと教えられてきました、だから、こうして、パパ…お父様みたいに抱きしめてもらえるとも思ってなくって」
ルゥイ:「…お父様だ。何故か、お前のことは知りたくなる…そしてこの、冷たい体には心地よい温もりだ」
ミーファ:「…、心地良い…嬉しいです。…お父様…」
ルゥイ:(M)そっと、頬に唇を押し当てられて、凍えた心に柔らかなもので撫でられた気がした。
ルゥイ:(N)十年後
0:ミーファ、十五歳
ミーファ:「お父様!大事(だいじ)ないですか!?」
ルゥイ:「大丈夫だよ、一万は流石に数が多かったが、全員殺してきた、むこう三年は、あの国はこの、スーペリアを、攻めては来ないだろう…。ミーファは―――何もされなかったか?ミーファの髪一筋でも、傷つけようものなら私が許さない」
ミーファ:「大丈夫です、お城の方々は、本当に良くしてくださっています」
ルゥイ:「それなら、良かった。さぁ、ずっと留守にしていたから、あの墓標(ぼひょう)へ行こう」
ミーファ:「っ!少し、休まれてからでも」
ルゥイ:「―――駄目だ、本当は毎日欠かさず行かなければいけないんだ…」
ミーファ:「―――お父様は―――…」
ルゥイ:「うん?なんだ?」
ミーファ:「いいえ、なんでもありません、一緒に私もお供します」
ルゥイ:(M)誤魔化すように気を取り直して笑うミーファの笑顔に、何年か前のように、ふと浮き上がった疑問に再び目を瞑った(つむった)。
ミーファ:(M)ひっそりと小高い丘に墓標が立っていて、そっと枯れることがない白い花が植えられていて、お父様はその白い花に向かって、ご自分の手首を切って血を振りかけます。毎日、毎日、明かすことなく墓標の白い花に血を与え続けています。私は見ることしか出来なくてそっと、目を伏せました。
ルゥイ:「大丈夫、私は永遠に貴方を忘れはしないよ。ミーファ…、」
ミーファ:「はい」
ルゥイ:「―――この墓標はね、私の双子の姉のものなんだ。姉は人を治癒する類まれなる能力を持っていて、人を癒していたんだ。けれど―――魔女といわれのない罪を被せられて火破りにされたんだ、私は怒りで何千もの者を殺し、そして人で無くなった。皆、私を恐れて、城主にし、崇めた。私は―――姉が眠るこの地をずっと永遠に守りたかった…」
ミーファ:(M)お父様の切ない声が私の胸に痛みの花を咲かせました。
ルゥイ:「…ミーファ…」
ミーファ:「はい、お父様…」
ルゥイ:「逃げろ…」
ミーファ:「…え?」
ルゥイ:「(ミーファ抱きしめて)―――約束したお前が二十歳の頃までどうやら、待てそうもない。この荒れ狂う戦乱を私一人で止めるにも限界が来る。その前にお逃げ。普通の人間の娘として生きるんだ…。私はお前を糧になんてしたくないんだ…。(離して)ルーベンスに、手筈を整えさせた。ルーベンスに従って、逃げるんだ」
ミーファ:「そんな事をしたら、お父様が!」
ルゥイ:「ルーベンス、連れて行け、ここは誰も踏み入れない地、私が時を稼ぐからお前は手筈通りにミーファを、この国の外に逃がせ」
ミーファ:「いや!やめて!離して!(腕を掴んで連れていこうとするルーベンスに逆らって)ミーファは最後まで、お父様のところへいます!やだ、やめて、お父様ぁ!」
ルゥイ:(M)ミーファの痛々しい悲痛な声に目を伏せ、墓標をただ見ることしか私はできなかった。
ルゥイ:「永遠にこの地を、いや、貴方の墓標を守ろうとしたが、私にも果てる時が来たようだ…」
ルゥイ:「ミーファはどうしているだろうか…はぁはぁ」
ルゥイ:(M)―――あれから、五年、ミーファという贄を逃して、贄なしで守ろうとした私に民達は疑心暗鬼になり、新たな自身達を守ってくれる主を探しているようだが、見つかってはいないようだ。私はこの土地を攻めて来る者を相も変わらず皆殺しにし続けたが、城へ戻った私の体は既に贄の生き血を吸えず悲鳴を上げ、限界を来たしていた。
ルゥイ:「もう…終わりか…」
ルゥイ:(M)私の首をかき切ろうとした、暗殺者に、対しても無抵抗に切られようとした刹那
ミーファ:「お父様!」
ルゥイ:(M
)懐かしい悲鳴のような呼び声と何か柔らかく懐かしい温もりが暗殺者と私の間に割ってはいってきた。瞑っていた目を見開いた私は絶句した。
ルゥイ:「ミーファ…おのれ!(暗殺者の首をへし折る)」
ミーファ:「お、お父様(血を吐きながら)」
ミーファ:「ううっ!や、約束を果たしに来ました…ミーファの血をお飲みください…」
ルゥイ:(M)部屋中にミーファの馨しい(かぐわしい)血が漂い(ただよい)、私は、理性を失った浅ましい者に成り果て差し出された首筋に噛みつき、肌を噛み破った。そして、思う存分、既に暗殺者の手によって傷ついて、流れ出している清らかな命諸共、吸い尽くした。そう、この命は私だけの命だと言わんばかりに。
ルゥイ:「っ!―――私は何をっ!ミーファ!」
ミーファ:「ルゥイ…最後に貴方の役に立てて良かった…」
ルゥイ:「―――何故?私の名を!?」
ミーファ:「私はユゥリ…ユゥリ・スーペリア…生まれ変わった、の。孤独な弟、ルゥイ・スーペリア…にずっとずっと会いたかった…」
ルゥイ:(M)ずっと、ミーファに対して目を伏せていた、疑問に、点と点が結ばれていく。
ルゥイ:(M)まるで、自分に会いたかったというように泣きじゃくるミーファ、ミーファという名前にどもるミーファ、化け物に成り果てた自分へ向けられる寄り添うような愛情深い優しい温もりのミーファ…。
ルゥイ:「姉上…何故、何故!?」
ミーファ:「長い時間を経て、こうやって、会えて良かった…。愛する者の血を飲んだら、貴方はこの呪縛から逃げられる…だから私はミーファになってきたの。ごめんなさい―――もう、貴方が見えない、もっと話したいけど…もう…ごめん、な、さ…」
ルゥイ:「姉上!いかないでください、もう私を置いていかないで!」
ルゥイ:「身体が温かい…、人間になったのか?姉上…、ミーファがいないこの世なんて…私は…でも…ミーファは私が後を追うなんて望まないだろうから、ミーファ…君の骸を抱いて私は天寿まで生きる事にするよ。今度こそ、絶対に間違えない…ミーファ、姉上…ずっと私も会いたかった、逢いに来てくれてありがとう」
ルゥイ:その後私は、スーペリアの地の片隅の山でずっとミーファを抱きながら天寿まで生きた。
ルゥイ:「来世で、今度は姉上…幸せになりましょう…永遠に貴女を愛しています」
0:fin
誰がために花は咲く~とある吸血鬼の愛~ 雪月すず猫 @mikaduki_0305
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