地獄へようこそ

逢初あい

第1話

「・・・では、以上で面接を終了いたします。本日はありがとうございました。」

 目の前の男がそう告げる。私は、男に謝辞と礼をし部屋を出た。建物を後にした私は、肩の荷が降りたような軽やかな気分だった。様々な場所で面接を受けたが、今日の出来は最高だったという自負がある。まだ採用されたわけではない。しかし、私の憧れの場で働ける日が来るのだと思うと笑みが溢れてしまう。希望と嬉しさを胸に、軽やかな足取りで私は帰路についた。

「・・・俺もう帰るからさ〜、これもやっといてよ。今日中に終わらせて明日の朝イチで提出しろよ〜」

 あの日から数年が経った。当時、私の面接を担当した男は私の上司になった。憧れの場で働きたい。そう考えていた私の青臭い考えはすでに腐ってグズグズになってしまった。来る日も来る日も上司から仕事を回される。納期に遅れたり、断る素振りを見せようものならば激しく叱責された。かと思えば、彼は甘言で私を惑わせ優しく接してきた。1人きりになった職場で、私は黙々と書類仕事を続けた。私は誰かの役に立ちたかった。ここでならそれが出来ると思って志望したが、毎日明け方近くまで誰かのいつ使うともしれない何かの作業をしている。

毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日

「これじゃ何も変わってないじゃん・・・」

そう呟いたところで今自分の意識が飛んでいたことに気がついた。まずい、外は既に明るい。一体何時から意識が飛んでいたんだろうか、と考えたが疑問が湧いてきた。なぜ私は経っているのだろう。確かに座って仕事をしていたはずなのに。そう思い、私は赤く濡れた周囲を見渡した。

「・・・てください。起きてください!もう新人が来ますよ!」

 秘書の声で私は甘い眠気から覚めた。最近はどうも忙しく疲れが溜まってしまっているようだ。私は秘書に詫びつつ、先ほど夢現に思い出した記憶を想起した。まだ私が`閻魔`という役職に就く前に担当した事件だった。犯人の女性は随分追い詰められていたようだったが上司を殺害した事実は拭えない。私たちは、罪人を公正に裁かなくてはならない。だからこそ私は彼女に情けをかけた。あれからどれだけ経っただろうか。今頃何をしているのだろうか。思い出した為気にはなったが、どれだけ考えても無意味かと割り切り仕事に取り掛かる。私の元に配属になった新人達が挨拶にくる予定だ。秘書が幾人かの新人を連れて部屋に入ってきた。皆緊張した面持ちをしている。私はふと笑みが溢れた。なるほど確かにどれだけ考えても無意味だったようだ。

「なるほど、罪人故に堕ちた訳か。因果なこともあるな。何はともあれ、地獄へようこそ。」

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地獄へようこそ 逢初あい @aiui_Ai

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