第9話
体育祭が終わり
残る行事は期末テストのみになった。
試験範囲の内容は文字通り暗記しているため俺はテスト勉強をすることなく、学校が終わると早々に帰宅を選択した。
いや、ずるしてるってわかってるんですけどね?ごめんなさいね?
半ば誰に向けているかも分からない罪悪感を持ちながら、取り敢えずは靴箱に向かう。
が、
「…………」
前方に気配を感じて、なんとなく身を隠すことにした。
そしたら、丁度タイミングよく、向こう側から声がした。
「長谷川くん、テスト勉強って進んでる?」
「うーん…まぁまぁ、かな?」
「あ〜さては怠けているな?」
「あはは」
「ダメだよテスト勉強を怠ったら。後の自分が後悔する羽目になるんだから」
「う……そうだよね。ごめん、ちゃんと勉強します」
「分かればよろしい」
案の定、長谷川とモモが帰宅しようと靴箱の場所まで来ていた。
「ねぇ、だったら……さ。今日、私の部屋で勉強会とか…どう?」
「え、…え!?」
長谷川はわかりやすく顔を真っ赤にしていた。
一方で俺は、出そうになるため息を必死に堪えていた。
もやっとする。
そうか、こんなイベントが前にも、僕の知らない間に、二人の間できっとあったんだろう。
体育祭以降も、モモに降りかかるトラブルは多少なりともあった。
それを今はモモに気づかれないように長谷川との重要なイベント以外のトラブルを対処している。
無駄に嫌な思いをしてほしくないから。
だからモモには、長谷川となるべくいい思い出を作ってほしい。
俺はそう願っているはずだ。
だけど、今自分につっかえているこの気持ちはなんだ?
これは俺の目的を邪魔する物でしかなく、俺が産んだ後悔の原因でしかない。
今俺が抱えている感情こそが、モモを傷つけたんじゃないのか?
この期に及んで俺は、本当の意味でまだそれを理解しきれていないというのか。
はぁ……
思わず心の中でため息が出てしまう。
今でも会話を仲良さそうに続けている二人を他所に、俺は気配を消し、決して悟られぬようにその場を離れた。
そのまま下校するのもなんとなく、気まずくなった俺は図書室に向かうことにした。
今は誰もいないはずだから。
心なしか足取りが重い。
扉を開けてみても、中には案の定誰一人…いや、一人いた。
向こうもこちらに気がついたみたいで顔をこっちに向ける。
「あ、池水くん…」
「あ、あぁ…どうも…」
以前リレーで転んだ女の子がそこにいた。
おそらく暗くなっているでろう自分の顔を誤魔化すように愛想笑いを浮かべている。
上手くできていたらいいんだが。
このまま黙っているのもなんだから、取り敢えず話しかける。
「テスト勉強してるんか、偉いな」
「ううん、全然だよ。私、成績悪いから」
「そなこたぁないやろ。普通は放課後に図書室に来てまで頑張ったり。おれをみろ、見事に何もしていない。」
別に恥じることはあっても誇るべきことではない俺の宣言に女子生徒は苦笑する。
「頑張ってるフリだけはね。ポーズだけ昔から上手で……でも、結果はどうしても悪くて…」
彼女は自虐するように微笑んだ。
本当に恥ずかしいと言った様子で軽く握り拳を作ってぎゅっとする。
だが、ポーズだけの人間が、ノートびっしりに文字を埋めるなんて事、はたして出来るだろうか。
たとえどんなに要領が悪かろうが、それに費やした時間は確かにある。
それに頑張らない奴が誰もいない放課後の図書室にで誰にも知られずに一人残って勉強する筈がない。。
少なくとも自分の目にはそう映る。
はぁ、くそ。
さっきの件もあって、俺はこいつに俺を重ねてしまう。
いや重ねるのが筋違いなのも理解している。
俺は自分から望んで、進んで過去に戻る前と同様にモモが長谷川と結ばれる結末を望んでいる。そうしなければいけない理由もちゃんとある。
だから、自己嫌悪をしてしまう。
なに勝手に、被害者ぶってんだよ。
いい加減にしろよ。
お前のその人間性で、お前が一方的でも大切だと思った人がどれだけ傷ついてしまったのが分からないのか。
心の中で吐き捨てる様に自分を罵倒して、同時に、目の前にいる奴の努力がどうにか報われてほしいと思う。
誰かの頑張りは、頑張りに見合うくらいの見返りが返ってきて欲しいと、願ってしまう。
「…じゃあ、どこが分からないの?」
「え?」
「よければ俺が勉強教えるよ」
「で、でも悪いよ。池水くんだって自分の勉強があるはずだし…」
「いいからいいから」
今までの俺なら、成績はそこそこで、完璧に教える事は難しかった筈。
だが今なら
神様から与えられた力があれば、誰かに物を教えるぐらい容易じゃないか?
いいよな、それぐらい。
人助けに使うんだ。多めに見てくれよ、神様。
ただの自己満足で、自分の為で、決して彼女の為にしていることではないかもしれない。
自分こそ、頑張っているんだ、やれているんだって、ポーズを取りたいだけかもしれない。
それでも。
それでも俺は、彼女が少しでも報われてほしいと思ってしまったんだ。
俺は彼女を手伝いたい。
「すぅ……」
静かに息を吸い、脳に酸素が行き渡るように深呼吸をする。
意識を切り替える。
スイッチを入れるイメージを頭の中で浮かべて、潜在能力を覚醒させる
意識を集中させ、フル回転で頭を回す。
「じゃ、じゃあ…ここが、分からなくて…」
「うん」
彼女は自信なさげに広げた教科書のページのわからない所を指差す。
俺は彼女のノートと教科書、そして聞き流していた先生の授業で教えていたポイントを思い出し、脳内に浮かび上がらせ、並列処理で考える。
「ここはね…」
どこを苦手としているのかを割り出し、教科書に載っている内容と照らし合わせ、授業のどこで何を取りこぼしたのか。
必要な情報を彼女が理解しやすいように噛み砕いて整理して、例え話を交えながら最適な順番で適切に伝えていく。
普段から真面目なのか、彼女は俺の話を真剣に聞こうとしてくれるお陰で、俺のなんちゃって授業は順調に進んでいった。
もしも次があるのなら、独善的なモブを辞めて今度は君に愛を伝えない 人気者 @fireflies
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