宇宙の影間
「ねえ、ショウ、見てよ。どうやっても解析できないわ。」
アイコは薄闇に包まれた宇宙船内で小声でつぶやく。
航行モニタを覗くとそこには、"宇宙の影間"と呼ばれる漆黒の領域が漂っていた。
手持ちの非常電灯に照らされ、彼女の頬には疲れとわずかな興奮が同居している。
宇宙船の先頭、可視光ヘッドライトは弱々しく点滅し、まるで行き場を失った蛍のようだった。
◇
「待って、アイコ。こういう時こそ、何か手掛かりがあるはずだ。」
ショウは計器類をアナログモードで弄りながら、額に汗を浮かべる。
「そもそも、なぜこの宙域まで来たんだっけ?」彼は少し笑って首をかしげた。
「前に説明したでしょ。あの祖父が遺した宇宙遺産を探しに、ね。どうやら遺産は貴金属小惑星で、宇宙の影間に隠されたらしいの。」
彼女は軽く唇を噛み、静かに囁いた。
◇
「しかし、本当に見つかるのかな?」ショウは舷窓の外をじっと見つめる。
そこには星もない、何もない暗闇が広がるばかりだ。
「さっき、何かがこっちを見てる気がしたの。」アイコは不意に震えた声で言う。
「こんな場所で?何もないのに?」ショウは一瞬、笑みを浮かべようとして、できなかった。
この闇が、ただの闇なのか、彼らは確信を持てずにいた。
◇
「もし、貴金属小惑星じゃなくて、もっと別の……私たちが知らない何かが待っているとしたら?」アイコは非常電灯を少し上向ける。
「わからない。でも、引き返すには遅すぎる。」ショウは肩を竦め、苦い笑みを浮かべた。
やがて二人は、ほとんど同時に舌先で乾いた唇を湿らせ、静かに目を閉じる。
その瞬間、船内の計器は、誰が操作したわけでもないのに微かな合図を点滅させ、
「ほら……」とアイコが言った時には、【黒い何か】が、音もなく、二人を覆ったのだった。
(了)
小松菜屋ショートカクヨム @hatakoma
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