煌々と輝く。
持野キナ子
煌々と輝く。
タンタンタンタタン。
事務員に連れられ、私は施設の面会室に入る。おばあちゃんが、面会室で阿波おどりを踊っている。認知症があるとは思えないほど、綺麗な動きだ。聞いたところによると、転倒や、暴力暴言などの周辺症状もないらしい。
老人保健施設オレンジ園に、おばあちゃんは入所している。認知症になり1人暮らしが出来なくなったらしい。数ヶ月前から、病気の母に変わり私が面会に行っている。今日は、おばあちゃんとの貴重な面会日だ。
面会の度に、彼女は阿波おどりを舞う。徳島生まれだから、阿波おどりは完璧に踊れるらしい。
私には振り付けが正しいかは不明だが、本人が楽しそうだから見ていて爽やかな気持ちになる。
「入所したら、車椅子の人が多くてね。レクで一緒に野球とかしたかったけどさ。でもダンスは車椅子でも出来るから楽しいな」
そう言うとおばあちゃんは、笑顔で阿波おどりを舞う。思わず私も笑顔になる。
その時、おばあちゃんのポケットから筒が落下する。
「これは何?」
「これは万華鏡だよ。私は万華鏡が好きでさ。先週のリハで作ったんだ。覗いてみる? 綺麗だよ」
おばあちゃんはそう言うと筒を私に差し出す。
「綺麗だなー!」
そこにはキラキラ輝くカラフルな世界がある。
「綺麗でしょ。私は万華鏡を覗くのが好きでさ。戦時中も結婚時も良く覗いてたよ。ダンスと同じくらい好きでさ。まるで万華鏡の中が夢の国のスポットライトみたいでさ。辛いときはよく覗いてたな。でも今も辛いよ。早く家に帰りたいな」
おばあちゃんはそう言うと、俯く。私は何て声を掛けて良いかわからない。そんな空気を察したのか、彼女が呟く。
「ごめんよ、なんか。ところで沙也は万華鏡を気に入った?」
「うん」
「じゃあこの万華鏡、今度の面会日にあげる。実はまだ未完成でさ」
「いいの? やったー!」
私は万歳をする。本当に万華鏡は綺麗だったから。
その時、事務員さんが唐突に入室した。
「すいません、面会終了の時間です」
絶対にまた来るね、私はおばあちゃんに約束をして別れた。彼女は笑顔で私を見送った。
だが、それが最後の面会日になった。
おばあちゃんは、翌月に肺炎になり亡くなったからだ。
葬式を終え、遺品整理を家族とした。整理作業中に、あの万華鏡が出てきた。私は悩まず、万華鏡が欲しいと親に伝えた。
自室で、おばあちゃんを思い出す。もう会えないおばあちゃん。自宅復帰が出来なかったおばあちゃん。
そして万華鏡を覗いた。煌々と輝くサイケな世界がある。その時、万華鏡の中で動く人物に気が付く。
「あれ?」
それはおばあちゃんだった。彼女が綺麗に阿波おどりを舞い、此方に笑いかける。
「沙也、頑張れ」
おばあちゃんはそう叫ぶと万華鏡の彼方へと消えた。それ以降は、二度と現れなかったが、私は前向きに頑張れそうな気がした。
煌々と輝く。 持野キナ子 @Rockhirochan1206
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