第4話 初めての目玉焼き



黒崎さんが初めて見せる顔。

若干顔を赤らめて、気恥ずかしそうに感謝の言葉を述べるその表情は、まさに人間らしい微笑みだ。


(クールな桃香ちゃんの可愛い一面を見れて、俺は嬉しい!)


「全然気にしなくていいよ」

『ただ、少しやり過ぎな気がしなくもないわね。もう少し手加減してあげた方がよかったんじゃない?』

「ん、さっきのチャラ男のことかな」


黒崎さんが過酷なサバイバル生活を送ってきた事実を知った今なら分かる。

……黒崎さんが獣のような体力と腕力を持っているのだと。


チャラ男に捕まりそうになった時もそうだ。

あの時は必死だったから気付かなかったが、おそらく俺が手を出さなくても撃退できたんじゃないかと思う。


「コンビニの前でチャラ男に絡まれてたけど、もしかしてあの時、本気でやり返せば倒せてたんじゃない?」

『楽勝ね、本気を出せば三秒で終わってたわ』

「やっぱりか……」


黒崎さんにはどこか余裕があった。

本当に嫌がっていたなら大声を出して助けを求めたり逃げてもいいはずなのに、何故かその場に居続けようとしたのだからな。


『外で他人に暴力を振るったら警察に捕まるからやめなさいって怒られたの』

「その職員の言う通りだ、女の子が野蛮なことをしたらダメだぞ!」

『無人島は弱肉強食の世界よ』

「残念ながらここは北斗◯拳の世界じゃなくて、日本だからな……」

『そうね、肝に銘じておくわ』


彼女を真に怒らせてはならない。

下手したら北斗百◯拳で秘孔を突かれる可能性もあるからな。

これからの言動には最新鋭の注意を払わなければ、俺の命が危ないのだ。


ちなみに俺の放ったローブローは正当防衛なので大丈夫だ。

少しばかり教育にはよくないやり方だったから、一応反省しておこう。




この数時間で色々なことが起きすぎた。

色んな意味で刺激的過ぎて、精神的に疲労が溜まっている。

雨の中を走り回ったことも相まって体力的にも限界が近い。


俺は腹の虫が鳴り始めていた。


「黒崎さんもお腹空いたでしょ」

『そうね。夜も遅いし食事を取りましょう』

「あ、ちょっとどこに……」


そう言うと、黒崎さんはキッチンにある冷蔵庫に向かっていった。

どうやら冷蔵庫の中を物色しているようだ。


『グシャ……』

『ベシャ……』


何かが割れる音が聞こえている。

何かが落っこちて割れる音も聞こえている。


俺は、嫌な予感がしたので見にいくと、卵を片手で割って口の中に流し込んでいる。

加えて、手から滑落して無惨な姿に変貌してしまった卵が散見された。

倹約のためにスーパーで買っておいた安売りの卵が、台無しに!


「ちょ、何やってんの」

『丁度いい所に卵があったから、今晩の夕食になると思って』

「卵はちゃんと調理してから食べるものなんだぞ!」

『そうだったかしら。島での卵の食べ方はこれしかないと思っていたのだけど……』


貴女は異世界転生してきた人間なのかな?


とまあ常識的に考えてあり得ない行動だが、島に生息している鳥の卵と勘違いしているだけかもしれない……。

確かに生で食べる人もごく稀に存在するのだが、俺と年齢の近い美少女がやるべき行いではない。


教育しなければ。


「いいか、卵ってのは色んな調理方法があるんだ」

『そのまま食べるもんだとばかり思ってたわ』

「生卵を直接食すよりも、もっと美味しく食べられる方法があるんだから、勿体無いよ」


あまりにも無知な美少女に目玉焼きの作り方を一通り教えてあげた。


「フライパンに油をひいて、卵を入れて、水を入れて、蓋をして、焦げないように様子を見ながら……はい、完成。簡単でしょ?」


出来上がった目玉焼きを見た黒崎さんは、目をキラキラと輝かせている。

施設にいた時は一体何を食べていたのかと疑問に感じるほどだ。


『こ、こんなに綺麗な形に出来上がるのね、知らなかったわ』


やはり女の子。

綺麗な物にはちゃんと反応を示すのだ。


俺はフライパンから皿へと目玉焼きを移す。

味付けに醤油を垂らして胡椒を振りかけた。


「シンプルだけど美味しいから食べてみて」

『分かったわ。では早速……』

「待って待って、ちゃんと箸を使って食べないと手が汚れちゃうよ」

『そういえば施設の人にも同じことを言われた、気を付けるわ』


箸の持ち方が鉛筆持ちみたいで多少ぎこちなさがあるものの、しっかりと卵の白身を掴めている。


半熟状態の黄身を箸でプチプチと潰して不思議そうに見ている黒崎さん。

いつも一気に胃袋へと流し込んでるから珍しく感じるのだろうか。


卵さえあれば小学生でも作れるレベルの料理を物珍しそうに食していた。


『美味しい……明日も作ってよ』

「次は自分で作ってみなよ」

『私にはちょっと難しかったかも』

「何回かやれば慣れるって」

『そうだといいのだけれど……』


人間界に来てから二週間じゃ無理もないか。

こうして一緒にいると子供みたいで可愛いな。


さて、食器を片付けたらシャワーでも浴びてくるかな。

黒崎さんの面倒を見ていたら、すっかり自分の汚れを洗い流すことを忘れてしまってたよ。


「俺シャワー浴びてくるから静かに待っててね」

『まだ食事が足りないのだけど、冷蔵庫の中漁ってもいいかしら』

「ダメ! 後で違う料理作ってあげるから待ってなさい!」


俺はシャワーを浴びに行った。


……だがこの短い数分間の間、目を離してしまったばっかりに見付けられてしまったのだ。


……あの薄い本を。



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2024年12月13日 07:21 毎日 07:21

無人島で育った無知な美少女を拾ってみた 微風 @0wc2k

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