06 蝕まれる心
爆発の轟音が、夢の世界を揺るがした。無数の霊獣が悲鳴を上げ、空を舞う。クロードは遠くから、その光景を眺めていた。手の中の邪気が、まだ熱を帯びている。
「思った以上の威力だったな」
そう呟きながら、彼は粉々になった樹木の残骸を見つめた。集めた邪気を手紙に凝縮し、押し付けただけ。それなのに、こんなにも大きな破壊を引き起こすとは、思ってなかったようだ。
街はパニックに陥っていた。死者たちが右往左往し、霊獣たちは空を乱舞している。そんな中、一際強い光が天から差し込んだ。
「ソラか……終わりの始まりだ」
創造神の力を感じ取る。しかし今回は、いつもと違う。より強く、より鋭い光だった。彼は身を隠しながら、その成り行きを見守った。
光は街全体を包み込み、特に神々の住まう高層ビル群に集中していく。するとビルが溶けるように形を失い始めた。中にいた神々の姿が、魂となって空へと散っていく。
「天罰か」
そう言いクロードは笑みをこぼす。神々への裁きを下すソラ。それは皮肉にも、彼の望んでいた光景だったのだろう。ただし、目的は違う。ソラは世界の秩序を守るため。クロードは破壊するため。
光が収まると、街は静寂に包まれた。死者たちは呆然と立ち尽くし、霊獣たちも静かに空を漂っている。そして3年、変化は現れ始めた。
現の世界で、特別な力を持つ子供たちが生まれ始めたのだ。クロードは密かに情報を集めていた。彼らは「
「面白い」
クロードは薄暗い部屋で、集めた情報を眺めていた。クロードの手には「洗脳」の能力を持つ少年の情報が載った書類を持っていた。まだ幼いその少年は、言葉で人の心を操ることができるという。
「使えるかもしれないな」
クロードは頭の中で計画が形を成しているのか、それを逃すまいと手帳にメモを残している。現の世界に住む現人神たち。彼らは必ずしも、ソラの思い通りになるとは限らない。むしろ、クロードの側に付く可能性だってある。
更に月日は流れ、クロードが計画を練っていた矢先、もう一つの興味深い情報が入ってきた。「影操」の能力を持つ少女、シャーロット・ネフィリアの存在だ。彼女は生きながら夢の世界を訪れ、ソラに忠誠を誓ったという。
「厄介な存在になるかもしれないな……」
クロードは暗い笑みを浮かべた。
「しかし、それも計算の内だ。むしろ、彼女の存在が私の計画を加速させる! なぜなら、彼女の出現は他の現人神たちの間に、確実な分断を生むはずだからな……くくく」
彼は立ち上がり、窓の外を見た。夜空には相変わらず、夢の星々が輝いている。
「マリア……」
その光を見て、妻マリアの姿を重ねたのだろう。
「悲鳴を聞いてから、どれほどの時が過ぎたか……もう少しだけ待っていてくれ。必ず、この歪んだ世界を変えてみせる」
呟きながら、彼は何かを思考し始めた。
「彼とは既に現の世界で接触した。「洗脳」の能力を持つ少年を通じて、徐々に影響力を広げている」
少年の能力は、予想以上に効果的だった。言葉で人の心を操る。それは、まるで毒のように人々の心に侵入していく。そして、その毒は確実に広がっていた。
「言葉は呪いになる」
かつて誰かが言った言葉を思い出す。その通りだ。言葉は人を救うこともあれば、破壊することもある。クロードは今、その破壊の力を利用しようとしている。
彼の視線の先の部屋の隅には、集めた手紙の山があった。死者たちの未練が込められた手紙。その中には、彼と同じように世界への憎しみを抱く者たちの想いが詰まっている。
手紙を一枚取り上げ、そっと開く。中からは濃い邪気が漏れ出した。
「この邪気こそが、私の武器となる。人々の憎しみや怒り、それらが凝縮された力だ。もう少しだ」
彼は手紙を握りしめた。計画は着々と進んでいる。現の世界では、密かに教団が形成され始めていた。「洗脳」能力者を中心に、現人神たちが集まりつつある。
彼らは、この世界の歪みに気付いている。神々が天罰を受けた今、新たな秩序が必要だと感じている。
「そして私は、その想いを利用するのだ!」
窓の外では、相変わらず夢の星々が輝いている。その光は、どこか不安げに揺らめいているように見えた。まるで、これから起こる変化を予感しているかのように。
クロードは再び手紙を見つめた。この手紙の中の邪気は、やがて大きな力となる。そして、その力は確実に世界を変えていくだろう。
「さあ、次の準備を始めよう」
クロードは静かに立ち上がった。現の世界では、教団の仲間たちが彼の指示を待っていた。彼らは、この歪んだ世界を変えたいと願う者たちだ。
部屋を出る前、クロードはもう一度夢の星々を見上げた。
「マリア……もうすぐだ。全てを、元通りにしてみせる」
その光の中にまた、妻マリアの笑顔が浮かべているのだろう。
その言葉には、もはや迷いはなかった。
廊下を歩きながら、彼は再び思考していた。
「現人神たちの力。手紙に込められた邪気。そして、人々の心の中に潜む闇。それらを全て結びつけ、新たな力とする。確かに、これは危険な賭けかもしれない。だが、もう後には引けない。マリアの悲鳴が、今も私の耳に響いている……その声に応えるため、私は進み続けるしかないのだ……」
階段を降りると同時に、クロードは周囲を警戒し始めた。何か違和感を感じたようだ。
「くくく……来るがいい」
誰かがを追っているような気配を感じたのだろう。彼は薄く笑みを浮かべた。
外に出ると、夜風が彼の髪をなびかせる。3年経った今もまだ、街は神々が消えた後の混乱から完全には立ち直っていない。その隙に、彼は着々と影響力を広げている。
「大河か……」
遠くには、大河の流れが見える。死者たちが目覚める場所。
「私も、あそこから全てが始まった。そして今! その記憶が新たな力となって、私を動かしている! ……準備は整った」
クロードは静かに呟いた。
「これから始まる戦いは、長く苦しいものになるだろう。しかし、もう
彼は人気のない方へと歩いて行った。
夢現新星譚【外伝Ⅰ】歪な世界と未練の檻 富南 @TominamiSora
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