転生最強魔王はお婿さんを公募します!?

たらふくごん

第1話

私は魔王エリルギード。

最強の魔王だ。

それもぶっちぎりの。


我が魔王国はこの世界の盟主。

弱き愚かな民たちを守る盾としての役割を担っていた。


この異世界。

剣と魔法、そして魔物が生息する『ベタ』なファンタジー世界。


学生時代難病を患い、命を落としてしまった私、宮下恵理。

私は10年前病気で16歳の生涯を閉じ、この世界へ転生していた。



※※※※※



魔王国、魔王城ムーンパレス『王の間』

今私は難問を抱え一人頭を悩ませていた。


『ねえ』

「………」

『ねえってば、エリ!!』

「……煩いっ!今考え事をしているっ!!貴様だってわかっているだろうが?」


そう、今私は一人だ。

実は転生というよりは憑依という状態に近かったようだ。

頭の中でしゃべるコイツ。

元魔王だ。


『むうー、つまんない。ねえ、ぱあーっとヒューマン殺そうよ。ほら、この前覚えた究極魔法?あれでも試してさ』

「却下」

『むううっ、エリのけち。ぶーぶー、つーまーんーなーい―!!』

「うるさい、だまれっ」


この世界、私が憑依するまでは魔王を名乗るコイツと威張り散らかしてた四天王とかいう奴等が、率先して弱いヒューマンをいじめていた。


あほか。


誰がうまい飯の元を作ってくれていたのか全然理解していない。

それにやることもなくコイツら暇だった。


私たちは魔族。

ヒューマンとは確かに違う摂理の生物だ。

だけど食事は必須。

しかも魔族は労働を嫌う。


『働かざるもの食うべからず』


その信条の私は憑依してすぐにアホな魔族を一人残らず叩き潰した。

物理的に。

たぶん10万人くらい。


一応上位種族である魔族。

魂を滅ぼさない限りは復活する。


なので私は遠慮なくぶち殺した。

そして出来上がった絶対的封建主義。


誰も私には逆らえない。


そうはいっても長い年月働くことを知らない種族だ。

だから私はヒューマンのボスであるこの世界最大の国家の王と会談を行った。


そして結んだ契約。

ヒューマンの脅威である魔物の退治。

それから未開の地の調査などetc。


その対価として食料の安定供給を獲得していた。


「誰かあるか」

「はっ」


私は偉い。

絶対者だ。

実は口調はわざとだ。

舐められるわけにはいかないからね。


でもね。

元は病弱で世間知らずな16歳。


実は内心、結構ビビっています。

いい加減私を補佐する人材が欲しいのよ!!


出来れば麗しい男性。

そう、私は腐っている。


病院の私のベッドの周りには死んだ時幾つものBL本がタワーを形成するほどに。


ああ、純真で美しい無垢な男性同士の絡み合い……

手を繋いで見つめ合う……

ああ、なんて尊い!!


因みにガチな奴は好きじゃない。

アレを絡ませあうとか…

お尻に……


うーあー!!

在り得ない!!


せめて裸で抱き合うくらいが良いのよね。

ふう♡


妄想がはかどる!!


幸いなことにこの世界、男女問わず美形が多い。

私の夢は美しい男たちに囲まれる逆ハーレム!!


まあ、私は絡まないけどね!!

見るだけなの。

うん。


コホン。

話がそれた。


「……ラギドか。状況はどうだ」

「はっ。現在黒峰のダンジョンは第38階層までは攻略が完了しております」

「ふむ。順調だな。農場の状況は?」

「はっ。……ただ少しヒューマン族にけが人が……」

「……けが人だと?なにがあった」

「え、えっと…そのですね……」


言い淀むラギド。

因みにこいつは吸血鬼の真祖。

この世界では上位の力を持っている。

とても美しい男だ。


まあ私はワンパンで殺せるが。


そんな状況に突然乱入してくる身の丈3メートルはある魔物の特徴を持つ種族、龍族のギルハットが魔力をたぎらせ私めがけ暴言を吐く。


「もう我慢できねえ。なんで俺様が農場の管理なんぞしなくちゃいけねえんだ?こうなりゃ魔王、てめえを殺して俺様が魔王になってやる!!覚悟しろっ!!」


魔力を集中させ極大な竜言魔法を紡ぐギルハット。

ふむ。

確かにかなりの威力だ。


この城位なら吹き飛ぶだろう。


「なっ?!き、貴様?!狂ったか?!」


ラギドが慌てて私を守るように位置取りをする。

ふん。

どうやらコイツの忠誠心は本物らしい。


私はため息をつきラギドの前に立ち、手をかざす。


「吸収」


あっけなく消え去る竜言魔法。

どうやらギルハットは学習能力がないようだ。


「な、なにい?!……く、くそがっ!!このインチキ魔王め!!」

「ほお?インチキだと?」

「そ、そうだ。俺様の竜言魔法は最強だ。止められるものなど存在しねえ!!」

「ならどう説明するのだ。ん?」


冷や汗をかき後ずさる。

マジでコイツ脳筋過ぎる。


「もう良い。殺すのもばかばかしい。貴様そんなに暴れたいのならダンジョンへ行け。良いな?」

「くっ、誰がてめえの言う事なんか…ひいいっ?!!」

「あ?」


一瞬で近づき首を掴み上げる。

少し力を込めればねじ切れるだろう。


「何か言ったか?」


そして押さえていた魔力をほんの少しだけ噴き上げさせた。

うわっ、汚い。

失禁とか?


「おいこら、何とか言え」

「……りました」

「はあっ?!聞こえないっ!!」

「わ、分かりました…し、従います。…だ、だから、こ、殺さないで……」


私はギルハットを投げ捨てる。


「おいラギド」

「……っ!?は、はい」

「片付けろ。ああ、別にお前でなくともよい。掃除部隊がいたな」

「は、はい」


「ふむ。そいつらにでもやらせておけ。貴様には相談がある。知恵を貸せ」

「はっ、仰せのままに」



そんなこんなで私の魔族経営は取り敢えず順調に経過していった。



※※※※※



「結婚?ですか?……魔王様の?」

「うむ」


実は私、メチャクチャ可愛い。

たぶん地球にいたらアイドルも逃げ出すレベルだ。


サラサラな美しく輝く、腰にまで届きそうな銀髪。

クリックリなアーモンド形の大きな目にはサファイヤがごとく神聖な輝きを放つ美しくも気品あふれる青い瞳。


すっと通った神の造詣がごとく整った鼻筋に、魅惑の禁断の果実のような艶やかな唇。


やや小柄ではあるもののしっかりと女性らしさをこれでもかと前面に押し出す奇跡のプロポーション。


155cmでちょうどよい大きさで形の良いDカップ。

足なんて驚くほど長く美しい。


自分でいうのもあれだがまさに絶世の美少女だ。

17歳くらいの見た目か?


そんな私だ。

求婚なぞ飽きるほど経験している。

まあ実際に付き合ったことなどない。

もちろん日本でもな。


だが今回、無視するには少し厄介な状況になっていた。


「国王がな、相談してきたのだ」

「アルデミス王国の国王ですか?」

「うむ。どうやら勇者を召還したらしい。そしてそれが強いのだがとんでもなく馬鹿でな。まあ、私は軽く撫でてやって滅ぼしたのだが……神がな」

「……軽く撫でて…?!……か、神?!!」


この世界、誰が作ったか知らないが、結構いい加減な設定で動いていた。

今回シャシャり出てきた神。


そいつがいきなりブチギレてのたまいやがった。


『この魔王め!!どうしてヒューマンの希望である我が勇者を滅ぼした?!こうなったらこの世界ごと滅ぼしてやるっ!!』


うん。

もちろん瞬殺してやった。


「っ!?か、神を?瞬殺?!!!」

「うむ。そしたらな、この世界あと数日で消えるらしいのだ」

「はいいいっっ?!!!!」


慌てふためくラギド。

高尚な真祖、まあ。


内容が無い様なだけに仕方がないが……

とにかく落ち着け。


「まあそれは私も困るからな。とりあえずその権能を奪っておいたのだ。だからしばらくは問題ないのだが」

「………はは、は。……分かりました。もう驚きません。はあ…」


うーむ。

呆れられてしまったか?

コイツ以外だとまともに話も出来んのだが……


「という訳でな、どうやら私と契りを躱した『仮の神』が必要なのだ。なんでも私の体液を相手の男とかわす必要がある?実際には何のことやら……誠に馬鹿らしい。唾液とかなのか?……まあ何はともあれ、こればっかりはあのアホな神の摂理、どうにも変える事が出来ん」


「はあ…」

「しかもな、私を愛さなければその力は効果を発揮しないのだ。そして私もその男を愛する必要がある。愛とはなんだ?抱き着けばよいのか?……良く判らん」


「っ!?……そ、それは…ヒューマンである必要があるのですか?我々魔族では……」

「うん?かまわぬぞ?……だが私の力を知っている魔族が、私を愛すると思うか?確かに私は超絶美少女だ。だが最強だぞ?痴話げんかで殺してしまう」


「うーあー」


うん?

ラギド混乱しているな?

……まったく。

言葉が乱れているぞ?


「まあ、そういう訳だ。知恵を貸してくれ」



※※※※※



こうして前代未聞の最強魔王の婿探しが世界全土に公布された。

残された期限は約2年。


幾つもの種族が暮らすこの世界。

超絶美少女である魔王を求め、多くの混乱が巻き起こっていく。



※※※※※



魔王との謁見を終えたラギドは自室に入るなりベッドへと倒れ込んだ。

何時もメチャクチャな魔王。

散々振り回されている彼だが、今回の事は想定を超えていた。


(魔王様が結婚?……あのお美しい魔王様……た、体液を躱す?!……うああ、それは、そういう事?……ゆ、許さん。魔王様は……エリルギード様は……私のものだ……ああ、なんという美しい我が君……)


一人顔を赤らめるラギド。

彼は最初から彼女の事が好きだった。


一目見て心を奪われた。

もちろんラギドも殺された。

それもあっけなくワンパンで。


彼女、転生というか憑依して、覚醒していたのだ。

以前から確かに強かった。

だが今は既にそういうレベルではない。


まさに無敵。

そして恐ろしいほど男女のそういう事に疎いお人だ。


先ほど魔王様はおっしゃられていたがきっと理解はされていまい。


「求婚しよう」


ラギドは思い立つ。


「そうだ、私は既にあの方を愛している。それならばあとは魔王様に愛していただければよい。……私を愛する?……『……ラギド♡……貴方が好き♡……私を…好きにして♡』………………………ぐっはあっっ?!!!!」


鼻血を噴き出し倒れるラギド。


齢200歳を数える上級悪魔、真祖であるラギド。

彼は今だ経験のない『大賢者』であった。



※※※※※



「国王、わたしが立候補いたします」


ヒューマン最大の国アルデミス王国謁見の間。

先ほど全世界に交付されたお触れ『魔王の婿探し』に遂に立候補者が現れていた。


以前ヒューマン族と魔族は戦争状態だった。

しかし今の魔王、エリルギードは理知的で、むしろヒューマン族との共栄を求めている。

そしてここ10年、魔族によるヒューマンの殺害はほとんど発生していなかった。


「ふむ。確かにお主なら、魔王にもふさわしかろう。侯爵家が長男、そして首席で学園を卒業したお主なら」

「はっ、ありがたき幸せ」

「ならば申し込みは私に任せるがよい。追って知らせは送ろう。下がってよいぞ」

「はっ」


今回のお触れ。

魔王の美しさを表現した顔写真付きの物が出回っていた。


目を引く美少女。

そしてヒューマンに対し寛大な彼女。


皆、忘れていた。

彼女は最強の魔王であることを。



※※※※※



「くくく、たまんねえ。いい女だなあ。……どんなに強かろうが所詮女。俺様のテクニックでヒイヒイいわせりゃ、勝手に股を開くだろうよ」


「もう♡私を抱きながら他の女の話とか……サイテー……あんっ♡」

「ふん?サイテーな男に腰振ってんのは誰だよ?おらっ!」

「んあ♡……あんっ♡……も、もう……ああああんっ♡」


最初の犠牲者はその結末を知らずに盛っていた。



※※※※※



公募後3日が経過し、今日は国王より推薦された侯爵家の長男とのお見合いの日。

魔王であるエリルギードは可愛らしい服に身を包み、王国の城の一角にあつらえられた会場へと姿を現していた。


「ふむ、国王よ。協力感謝する。うまくいけばその男と我は婚姻を結ぶ。そしてその者は仮とはいえ神となろう。その覚悟は伝えてあるのじゃな?」

「はっ。魔王陛下の希望、すでに承知しております。紹介させていただくのは我が国の侯爵家が長男。優秀な男性です」

「そうか。それは楽しみじゃ。通せ」

「はっ」


程なく訪れた男性。

確かに美形だ。


「ほう。うむ、まずは挨拶じゃな。コホン。……初めまして。私エリルギードです♡17歳。エリって呼んでくださいね♡今日はよろしくお願いします♡」


完全な擬態。

恐るべし魔王。


今彼女は清廉無垢な17歳の少女を演じていた。


一目見て顔を染める男性。

写真より数倍美しい姿に思わず固まってしまう。


(やべー、マジで可愛い……こ、この子と俺、エッチなことできるの?くく、やべー)


「は、初めまして。僕はレイルース。ルガノッド侯爵家の長男です。よろしくエリちゃん」


そして握手をする二人。


(ふわー柔らかくて可愛い手……うあ、めっちゃいい匂いする……スタイル完璧……大きすぎない胸もエロいな……はあ、はあ、揉みまくりてえ…ケツもいい形だ……ああ、早くぶち込みてえ……)


舐めまわすように妄想しながらエリルギードを見る男。

魔王の感知にこの男の下卑た、ここ数日の行為が鮮明に映し出されていた。

もちろん今この男が妄想でエリルギードの体をいやらしく穢し続けていることも。

吹き上がる魔王の覇気。


「……居ね。貴様、殺すぞ?!」

「……は?」


激しい悪寒が男を包み込む。

息ができないほどのショックを受け蹲ってしまう。


「国王、これはどういう事じゃ?この男、クズではないか」

「な、何を?」

「ふん、ならば見せてやろう、この男のここ数日の愚かなふるまいを」


そして大きく映し出されるここ数日、わずか2日間にこの男が抱いていた女、7名との行為の映像。


会場にいた多くの重鎮たちの表情が凍り付く。


「な、な、何という……こ、これは?!」

「我も舐められたものよ…かような下種を我が伴侶として紹介するとはな…国王よ」

「……はっ」

「二度はないぞ?……今日は何も言うまい。だがゆめゆめ忘れるな、今回の事、我の希望ではない。この世界の命運をかけておる。分かるな?」

「はっ、こ、この度は…まことに……言葉もございません」

「ふん。殺す価値もない。レイルースといったな。貴様の名、忘れん。せいぜい後ろに注意することだ。それと遊ぶのなら我が相手をしてやるぞ?殺し合いだがな」

「ひ、ひいっ?!!」

「ふむ。どうやら癖が悪いようだ。どおれ、我が少し細工しよう。貴様、生半可な気持ちで女を抱いてみろ。二度と使えぬよう、吹き飛ばしてくれる」


男の体を魔力が包み込む。

時限式の条件魔法だ。


「下らぬ。無駄な時間であった。……王よ、わらわの決意、しかと心にとどめよ。さらばじゃ」


そして消える魔王。

会場は恐ろしいような静寂に支配されていた。



※※※※※



(こわいこわいこわいこわいこわい、きもいきもいきもいきもいきもい)


魔王城へ帰ってきたエリルギード。

彼女は自分の部屋でベッドにもぐりこみ、先ほどの男が妄想していたことをどうにか記憶から消そうと一人震えていた。


(な、なに?あの男?……妄想とはいえ……私の胸とか……お、お尻とか…うあーマジで無理!!気持ち悪い!!!)


魔王の能力は非常に高い。

つまり再現度もあり得ないほど現実に近かった。


目を閉じても実際に胸を揉まれている感触が体を駆け抜ける。

執拗に揉まれ続ける悍ましい感触。

そしてさらには揉まれまくるお尻。


(うあああああ、やだ、やだよおおおっっ。怖い、こわい、キモイ、キモイ!!!)


そして男のアレがそそり立つ映像が浮かぶ。

押し付けられる感触に遂に魔王はブチギレた。


「殺す!!!!」


魔王は転移し、何もない大海原の中央に極大魔法をぶち込んだ。


「はあっ、はあっ、はあっ………帰ろ」


その日周辺諸国を大津波が甚大な被害を出していた。

死者は出なかったものの、多くの建物に被害が発生していた。


もちろん後日、魔王のチート魔法で元通りにはなりましたとさ。



※※※※※



帰宅しベッドで寝ている魔王様。


『ねえ』

「………」

『ねえってば』

「……なに」

『ねえあんたさ、無理なんじゃないの?結婚とか』

「……どういう意味よ」

『だってあんた、全然乙女じゃん。向こうでも経験ないんでしょ?』

「…だから?」


思わず怒りを自身の脳内に向ける。


『うぐ、お、怒んないでよ。本当の事じゃん』

「……でも、この世界なくなっちゃうでしょ?」

『そうだけど……ねえ、ラギドあたりで手を打てば?』

「はあ?……なんでラギド?そもそも魔族はみんな私の事怖いでしょ?」

『はああああああああああああああああ』


やけに大きなため息をつく元魔王。

何だか居た堪れない気持ちになってくる。


『あんた優秀なんだかアホなのか時たま分かんなくなるよね』

「っ!?な、何よっ、言いたい事あるのなら言えばいいでしょ!!」


ここで無視?

酷くない?!!


『……とにかく、また同じ事になるよ?男は大体あんな感じ。まあ、あいつはちょっと異常だったけど』

「……うわーん。もうヤダ」

『よしよし。こうなったら『おねいさん』がレクチャーしてあげよう』

「……レクチャー?」

『うん。ね、リンクして?できるよね』

「う、うん……ひいっ?!!!」


そして始まる脳内アダルトビデオ鑑賞会。

おい、元魔王、貴様何処でこの映像をっ?!


絡み合う裸の男女。

そして触れられる敏感な場所。

零れる色っぽい喘ぎ声。


エリルギードは気絶した。


『……やれやれ……先は長そうだね……』


エリルギードが気づいた時、すでに朝が訪れていた。



※※※※※



その後半年が経過し、その間お見合いは12回行われていた。

すでにエリルギードはまるで修行僧のように達観してしまっていた。


元魔王が言った通り。

どの男も会った時すでに、エリルギードの体を妄想の中で好き勝手にしていたのだ。


「もうヤダ……もういい。この世界のことなんて知らない」


完全に心が折れた魔王。

彼女はお触れを回収していた。


何しろここ最近、彼女は部屋から出てこない。

完全に引きこもっていた。


「ねえ」

『……ん?』

「どうしよう」

『…あー』


最強で無敵な魔王。

でも経験のない彼女はどうしても立ち上がる事が出来なくなっていた。



※※※※※



魔王がひきこもっていても世界は動き続ける。

ラギドはかつてないほど忙しい日々をこなしていた。


「おいっ、ダンジョンはどうした」

「へ、へい。今ギルハット様が50階層に到達したところです」

「ふむ。農場は順調か」

「へい。新しい監視役のドルード様ですが、どうやら農業に興味を持ちまして……今新たな品種を試験しています」

「よし、ご苦労。下がってよいぞ」

「へい」


ラギドは大きくため息をつく。

そしてちらりと主の居ない玉座に目を向けた。


(エリルギードさま……ああ、もう10日は彼女の麗しいお姿を見れていない…しかし、この星の男どもはどうなっておるのだ?!我が愛おしい君を、まるで娼婦のようにいかがわしい目で見るなど…許せん。私なら……彼女を……)


「……ラギド?」

「っ!?……エ、エリルギードさま?!……もう大丈夫なのですか?」

「……ああ、苦労を掛けた……すまないな。お前にしか頼めん。許せ」

「っ!?もったいないお言葉……おお、まさに天の祝福…」

「ふっ、大げさな奴め……なあ、ラギド」

「は、はい」

「お前も男……やはりわらわで妄想とかするのか?」

「っ!?…………は、い……で、ですが…」


寂しそうな顔をする魔王に、ラギドは自分の心臓が止まるのではないかという衝撃を受けた。

そして沸き上がる想い。

この人を守りたい……


純粋な想いがどんどん湧き上がってくる。


「エリルギードさま、発言よろしいでしょうか?」

「うむ。許す。申してみよ」

「私と手を繋いではいただけませんか?私の妄想、ぜひご覧いただきたく」

「……ふん。愚かな……貴様とて男。試す価値もないわ」


そう言い立ち上がる魔王。

ラギドは自身の死を覚悟し、無礼を働く。


おもむろにエリルギードの手を掴んだ。


「なっ?!き、貴様っ!?……うあっ?!!!」

「ご覧ください、我が妄想、あなた様への想いをっ!!!!」



※※※※※



暖かい場所―――

そこは美しい花が咲き乱れる、まるで天国のような場所だった。


優しく微笑むラギド。

彼の瞳にはエリルギードを思いやる気持ちが溢れかえっていた。


「……あ……え?…」


ふいに出てしまう言葉。

幾つもの悍ましい情景を見せられてきた魔王は知らずに涙があふれ出すことに気づかない。

情景がぼやけていく。


妄想。

誰しもが行う行為。


そしてそれはコントロールなどできない。

魔王、エリルギードはここ半年で嫌というほど知ってしまっていた事実だ。


(あたたかい……ああ、なんて心地よい…これが…ラギドの?)


そして登場する優しい瞳のラギド。

彼はまるで宝物のように優しくエリルギードを包み込む。


「愛しています。私とともに生きて欲しい」

「……ラ、ギド……お、おまえ……」


ああ。

これは奇跡か?


そうか。

もう私は既に……


愛されていたのだな……



※※※※※



ビジョンが途切れ王の間。

エリルギードは静かに佇んでいた。


跪くラギド。

彼が口を開く。


「ご無礼を。我が首、どうぞ、お取りください」

「……なあラギド」

「……はっ」

「貴様、妄想のコントロールができる、そういう事ではあるまいな」

「……出来る物ならもっと私はあなた様を……感じてみたい」


大きく息をつく魔王。

そしてしゃがみ込みラギドの瞳を見つめる。


気付いたラギドはまるでトマトのように顔を赤らめてしまう。


「……ねえ。私の事、好きなの?……本当に?」

「っ!?エリルギードさま?……口調が……」

「もう、ちゃんと返事して。……私のこと好き?」


ラギドは勇気を振り絞る。

目の前の愛おしい女性を優しく抱きしめた。


「あうっ?!ラ、ラギド?!!」

「お慕いしております。ずっと……10年前から……貴方さまが転生してきた、あの日からずっと……愛しています」

「っ?!」


「私は愚かでした。話を聞いた時にお伝えできていれば……貴方をこんなに苦しめる事はなかった……」

「ラギド……」


やがて離れ立ち上がる二人。

見つめ合う。


「……はあ。あなた様は本当にお美しい……すべてが愛おしい」

「っ?!……もう。………遅すぎですよ?……私最強の魔王だよ?……良いの?」


そっとエリルギードの手を取るラギド。

そして跪き手の甲へ誓いのキスを落とした。


「愛しています。私と結婚してください」


経験のないエリルギード。

でも今この瞬間、彼女の胸はまるで爆発するかの如く激しく鼓動を刻む。

自然に顔が染まっていく。


「……よく、分かりません……でも……嫌じゃない……ラギド?」

「はい」

「時間、くれますか?」

「ええ。いつまでも待ちます。もう私は悩まない。あなたが好きです。誰よりも」


経験のない女性エリルギード。

彼女は初めて心の底からの求愛を受けた。


かつて日本にいたころ。

BL好きだったが当然恋愛小説だって読んでいた。


分からなかった登場人物の心情。

今彼女は初めて理解した。


(ああ、これは……恋?……)


改めてラギドを見つめる。

エリルギードを優しく見つめる彼の瞳。


安心感が沸き立っていく。

そしてとくんと鼓動が跳ねた。


(ああ、私……きっと彼が好きだったんだ……)


いつでも相談に乗ってくれていた彼。

どんな無茶な事でもいつでも彼女を守ってくれていた彼。


エリルギードの脳裏にその光景の数々がフラッシュバックしていく。

そして徐々に埋まっていく知らない感情。


彼女は、魔王は、恋に落ちていた。




※※※※※



「フン貴様、よもや忘れてはおるまいな。誰が最強か、今一度その魂に焼き付けてくれようぞ!!」

「ぐうっ、ぐぎゃああああああああああ――――――」



あれから5年が経過した。

未だエリルギードは結婚していない。


未だ最強の魔王としてこの星を管理していた。


でも……



※※※※※



「エリ、相変わらず君は強いな」

「うん。お疲れ様だねラギ」


自然に抱き合う二人。

すでに彼らは絶対の信頼で結ばれていた。


「ねえ、エリ。そろそろ結婚しない?もう待ちくたびれちゃうよ?」

「うーん。でもね、もうちょっと待って。……もう少しでね、この星安定するから」


魔王エリルギード。

最強無敵のとんでも魔王は、新たな星を創造していた。


あのアホ神。

彼の世界には大きな欠点が見つかっていた。

いずれ消えゆく運命だったノーズイルド。


魔王エリルギードは愛に目覚めたことで新たな力を得ていた。


「創造」


とんでもないチートスキル。

何よりあの星の摂理だと、救ったとしても愛する人、ラギドは神になってしまう。

そうすれば一緒にはいられないのだ。


だから彼女、最強の魔王は考え抜いた。

ダメなら作ればいい。


あり得ないほどのチートの彼女は最後までチートのままだった。


FIN

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