君はともだち

 相談員の朝日は、デスクのイスで、うたた寝してる。

明野朝日アケノアサヒ』の昔の話し。

 …………



 …………保育園だ。

 アサヒの保育園は田舎でもあって小さい。

 一クラス、確か十人も居ない。

 ……あとで、聞いたが摘発されたらしい。

 幼児暴行とかでは無く。

 業務怠慢? だったかな。

 

 理由は園児の昼食をねこまんま。

 (みそ汁と混ぜるお茶付けみたいな物)

 をずっと食べさせてた……から、らしい。

 

 アサヒは別の可能性を浮かべる。

 ポヤポヤっと……

 (俺の中じゃ、てっきりお遊戯会? で、男も女の子も下半身丸出し。それで蒙古斑。を見せびらかす。くくく……授業参観的なのが問題になったかと思ったよ) 


「ふはあああ」

 (?? ……何故そう思ったかて、だって僕の蒙古斑は今もあるからだよ右の足にね。だからンンッ)


 言葉を濁しながらアサヒが言う。

「内緒なんだよ?」

 (内緒だよ…)

 ポヤポヤするアサヒの頭。

「はああ」

「ぐー……」


 

 ねこまんまの話を誰かが続けてる。

 ……

『その時の、お偉い方が誰か知らないが気に食わなかっただろう。我々は食べたんだがな? なあ!? 皆もそうだろ?? ぶははは』

 クスクス笑える声がする、誰かの声。

 (慣れとは怖い物だ。普通ではなくても、毎日それが同じだと、異常性に気づかなくなる。僕らの保育園で、ずっと食べてた。ねこまんまみたいに)

 


 今日は、楽しみ保育園だ。

 運動会であり家族参加型!! 皆と遊べる。

 

 僕が一番印象的に記憶に覚えてるのは、かっちゃんと見た。

 父子一緒のパパ達のイス取りゲームだ。

 (楽しかった……ろ!?)

 その時、僕の父親は、障害者手帳等持っておらず。

 普通の人? として過ごしてた。

 (今、思えば悔しく思う。父親を晒し者にした罪悪感。自覚しはじめた。その……違和感が芽生えて僕を悩ませる)

 ……

『おおおおおお』

 素直で優しく、実直な父親は、かっちゃんパパのデカケツを回避しその最後の座に座った。

 (一位だやったー!! すごいよお父さん)

 

 

 まただ……誰かの声がする。

『これで? この素直さで? 誰が障害者だって? 楽しそうじゃないか? 頑張る姿を見せてさ』

『頑張るー??』『楽しんてるだけだろー』

『無視無視みーんな無! 視!』『きゃはははは』


「………………」

 過去の僕。

 (は? 誰の声)

 今の俺

 (あん? お前誰や)

 ――プツプツっと切れる音。

 

 ――――――

 ―― 

『なにがじゃ!!』

 未来の、うたた寝して居ていたアサヒが、この状況を垣間見て飛び起きる!!


過去の俺 

「なあ」

現在の僕

「ああ」

 

 目覚めたアサヒの感情に今と昔、二人のアサヒの気持ちが合わさり心の記憶の蓋を開ける。

『なあ!!!! おいーー!!!! くそがああ』

 頭を流れ渦巻く言葉、心の洪水。

「なあああ…………」

 アサヒは割れんばかりの頭痛に目覚めた。

 慌ててコーヒー、いや水道水を手ですくい入れて。

 アサヒはゆっくりと席に座り。

 

 ポツン

 ――落

 ぽッ

 両手から溢れる水。

 ……

「ゴクゴク。はあ……は……だ……はあ」

 過呼吸気味の気持ちを落ち着かせ。

 蓋をした記憶を振り返る。


「だあ……はあ……はあ」

 

 

「はあ」

 ……

 (俺の家の祖父母は、あえて? 見栄で障害者手帳も作らず。外聞を気にして自分らの好きなまま。今の、今のままでに、孫……俺や、すえの孫が生まれるまで……はい俺です!! こ、れ、が……な? だがな? 今まで父親を『普通の人』と過ごさせた。……結婚できたから良かったね?? はあ、ため息出るわ。お前ら嫁に(俺の母親)に謝れ。あーはあ、はいはい。てか?? おい、クソフボ。俺の夢に出てくるんやなくて。脳内に補聴器埋め込んで会話したろか!? よーく聞いとけよ!?……聞こえんか!? 人の心、気持ちまで聞こえんか。いつも自分自分!!! 無事、俺にも受け継がれましたよ。てめーらの血がな。生まれつき腎臓こっちも悪いけん。透析は願ったり叶ったり全変えしたいわ)

 …… 

 アサヒの心内、頭打ちを次々と襲う感情の波。 

 (今、昔、現在……この時の今は現在じゃない自分……説明が難し……はあはあ……はあはあ……はあ)

「今はいつ現在、今、過呼吸」

 ぐえーと吐いてしまうアサヒ。

 今が何時か分からない程に気持ちが乱れてる。

 ……それでも容赦なく彼等コトバは襲う。 

 (……俺の……両親……俺だけならいいわ。百歩譲るわ。でもな!? でもな……その間にお前ら、クソジジイとクソババアの実の息子が……俺の父親がどれだけ。この、社会。この社会でだ!! 現在じゃない。昭和の世界で!!!! 障害!? ……個性を持ちながら。人と違うからって……心病むほど。頑張った事をどれだけ、認めてくれるの!? 辛く耐えぬいてきたか?? 分かってくれるの。……わかるんですか? 二人の子供だぞ。……孫の息子の俺には父親守る程には理解してるぞ!!!!)

 ……

「ゼーハゼーハハッハッ」

 時の狭間の過呼吸。

 何処ここ何時いつであれ誰も気付きはしない。

 分からない何処ここが夢か現実か……


 それでもアサヒは「はあー」と息を吐き続ける。 

 (彼は……僕の父親は、最初に出来た。僕の友人であって僕だけの、いや皆の!! 素直で、優しくて逞しく。ここ大事『!!』……信念を曲げない。立派な背中を見せてくれる。俺の父親。そうだ親父オヤジだ!! 障害なんかじゃない……頼むよ……それを個性と呼んでくれ)

 

 アサヒはもう一度体内の物を戻してしまう。

 (……ぜーハゼーは)

 徐々に心の波を静め、ふーと息をして言葉続ける。

 ……「ゴクンッ」

 (ふーはあはあ、ふーーーはあ、おじいちゃん、おばあちゃんに聞きたい。でも今は聞けない。……ねえ? なんで?? 僕が親に、父親を精神科へ連れて行って。知的障害者手帳を作らせた。っ!! ……時は、もう父親は仕事を辞めている。家は無茶苦茶で、お父さんも頭だけじゃなくて心までも病んで……ほら、ね? 不器用なだけでさ病める気持ちもあるんだ……て!! じゃねえよ。おい。クソジジイ&クソババア。俺が神様なら主宗教じゃないけど、お前ら魂、NDしてるやわ。てめーらが親の責務として!! もっと早く精神科に来ていれば……「タラレバ」じゃねえんだよ。結果論だ。うちの親父は結果、社会の壁や波にぶつかり続けて。「躁鬱病そううつびょう」にだったんだぞ!!!! それも、知的障害者手帳の申請なのに、精神疾患を改めて知的障害者手帳に付け加える程にだ!!!! …………その時の先生に言われたよ)


 

『お父さんは先天性の知的障害障害者です。今まで辛かったでしょう。ただ………そして』


 ……


『いつ自殺してもおかしくない精神状態です』


 がーと積み木が崩れる音がした。

  

 (な゙ん゙でな゙ん゙でと、……この医師は他人事の用に言い放つ。そりゃ、ただの一患者だ。仕方ない。でも聞いてんのは医師じゃねーんだよ。あ?? 墓場のてめーらに聞いてんだよ。わかってんだろ?? 聞こえてるか分からないから行き先は二人とも地獄でいいか?? 手紙書くか? 文字なら読めるか? ENDエンド(食べるよ)と? ぐはははは …………と、そして医師から続けて説明された。自傷行為等が見られないのは、……)


 

『自傷のやり方がからでしょう』


 

 (なんだよそれ。……おい。だってさ!! その時も、あの時も……この時も? 時も、時も!? 時のときの全部だ!!!! 今も、改めて!! お前らは俺の父を!! 救えるかのか!? おい今もお前らに、墓場で寝る。権利、? が…………資格はあるのか!? お前らはずーっと指しゃぶって。ベッドに、おやすみ。から? の、夜露死苦やってんのか? はあ!? うっせえわ。おはようと? ちゅちゅっをしやがった……過ごした。甘い人生のくせに。リアリティがいやだからか!? その甘く腐りきった耳や目や口で、もっともっと外聞だけじゃない。現実を本当を!! 穴があるなら? 墓場を掘り起こして。お前らの目ん玉ほじって見せつけるぞ!! 見せてやる。現実、現在、今の僕らだけの家族。作る努力。……を、ただ、ただしてほしかった。結果、じいじもばあば、特にばあちゃん子だったから俺からして見たら。それはそれ、これはこれで嬉しいけど。誰もが救えなかった結果になったよ)



 アサヒは思いの丈の心を起こして、過呼吸になる。

「だあっはあ……はあ、はあ……はあ……あ」


 

 (はあ……はあ……)

 アサヒはふっと気づく。

 時間がイス取りゲーム前の時間に戻っている。

「はあ……はあ……あん? ん!」

 この時、問題はその前イス取りゲーム前に、一人の女の子が木陰で休んでいるのがみえた。

 

 (なんだよ次から次へと)

 

 だが、何やら様子が可笑しい。

 泣いているようにも見える。


 (んだよ。どしたんだ?)

 近くに父親だろーか? その女の子は彼の肩を揺さぶり、呼びかけている。

「……ん…さ…お……とさん」

 (なんだって? ……お父さん? おい反応がないぞ)

 

 アサヒはすぐに彼女にかけより。

 咄嗟に破散――ぱちんっ彼女の背中を、を叩く。 

「おい。 しっかりしろ。いいか? よく聞け」

 僕は、女の子にを取ってくるからと席を立つ。

 ……駄々打ッ打ッ打……

 ダッダッダッ

「脈、呼吸がない? AEDだ!!」

 最近出来たAEDを求め、僕は走り走りそして……

「見つけたAED」

 なんなら運動会より早かったかも、彼女と父親の元に僕は再び戻りはじめる。

 (あ、電話だ。救急車)

 僕は母親に持たされた携帯を初めて開く。

「119」

 ボタンを押す。


 鳴らしだす電話。

 ……ルルルルルル〜ガチャっ

『はい事故で……』

「救急車です。場所は〇〇で人混みに目立つと思います。あっ待ってください今、自動販売機に住所が……零―二です。その近く!! 患者状況確認お願いします!! いいですか? 倒れてる方は男性で、〇十代、意識なし、脈は触れません!! 心停止に近い状態です。こちら、……え!? そちら改めて確認します。はい……はい。その近くです!! すみません子供二人しか居なくて現在対応できてません。AEDを見つけたので使います。 対応するので、電話繋いだままお願い出来ますでしょうか??」



 アサヒは携帯をスピーカーにする。



 戻ったアサヒは状況を確認しつつ、あたふたしている女の子に話しかける。

 (周辺は、うん。人は何人かいるが混んでない)

「おい!! しっかりしろ」

「う……うん」

 ゴソっとあるものを自分に渡す女の子に気づく。

「っ!? おい……それは」

 僕は心で驚き呟く。

 (頭や心機能、呼吸器じゃない……糖尿病だ)

 アサヒが何故? 糖尿病と思ったか? それは彼女の手にして居た物に答えがあった。

 彼女が持っていたのは注射器であり、恐らくノボラピッド液剤だろう。

 

 糖尿病……ノボラピッドはインスリン注射薬。

 血糖値を下げる為に、本人が打てばいい。

 だが……この時、この時代では注射は本人。

 もしくは家族しか使用できなかった。


 (それに、打った後? 前か? はっ!!) 


 アサヒは気づく。

 (その前に心臓だ!!)

「おい!! とりあえず心臓だ」

 女の子に呼びかける。


 僕は彼女の父親の上半身を横、仰向け、横と膝の支点を使いながら手慣れた手順で脱がす。

 上半身が露わとなった彼にAED措置を始める。

 

 

 不安な彼女に僕は申し訳ないが煽る。

 (僕はわかって、煽ってる。だけど、しっかりしろ)

「おい!! 君はこの子の娘か? 間違いないな!? よし。呼吸の確認!! 顔に耳を近づけ聞いて。胸や腹が動いてるか確認しろ」

 不安そうな女の子は頷く。

 (ちっわかってるけど。このままだとこの人が死ぬ)

「目線は耳を当てた先だ逆だ逆!!」

 (すまない。言い過ぎた)


 彼女は言う。

「でも緊急車」

 アサヒは言う。

「そんなもん、もう呼んでるんだよ!!」

 アサヒは走ってる際に救急車へ電話してる。


 

 繋がる救急先のひっぱくする。

 子供だけの現場の緊張感。


 

 どうしたら、いいか悶える彼女。

「うう……あ」

 震える彼女の手は……

 (ちっ)

「俺と手を繋げ!!」

 両手と両手で恋人繋ぎにしする。

「胸骨圧迫て知ってるか?」

 ブンブンと首を振る彼女。

「じゃあ、あんたがたどこさは?」

 彼女は首傾げに言う。

 「……わか……ない」

 (クソ時間ないのに)

「ならトイ・ストーリーは!?」

 


 彼女は震えながら、頷く。

 (知ってるとこまでやったらAEDだ)

 僕は震える彼女の手を一緒にそえ、ドン! ドン! とリズムに合わせて歌いながら心臓マッサージを誘導する。

 (……恥ずかしいから早く救急車を)

 心臓と身体を繋げるように歌う。

 ――ドン! ドン! ドドン ドドン

 ――ドドンがドンっ!!


 歌い出すアサヒと小さな彼女。

「俺がついてるぜ……」(俺がついてるぜ)

「辛い事ばかりでも、君はくじけちゃ駄目だよ」

 ……

「思い出せよ友達を、君のすぐそばにいる」

 ウー……(サイレンの音)

「いつも俺がいる」

 (近づいてくる)ウーウーウー

 ウーウーウー

 救急車の音だ。

 目の前まで来る。

 

 アサヒは思う。

「だあー……はーはあー」

(俺なんか、色んな意味で助かった)


 緊急隊の一人が言う。

「早くのせろ」

『イチ、二、サン』

「はい乗せました」

「ご家族は?」

 振り絞る声で小さな彼女は言う。

「私です」

 ウー……

 そこで彼女とは別れ。

 救急車は走り出しアサヒは背中を向け歩く。

 ウーウー(サイレンが遠のく)

 ……

 アサヒは自分を落ち着かせるように歌う。

「俺がついてるぜ」

 (俺がついてるぜ)

 ……ウーウーウー

「……ふふーんふーふーふん」

 (なんだよ。サイレンがコーラスみたいだ)

 ウーンウーウーン

「悩み抱えていても、君は秘密にしちゃっ駄目だよ?」 

 彼女の泣き声とサイレンの背中を受ける僕。

 (ははっ大丈夫やれる事はしたんだ)

 本当に自然と不意に笑みが溢れるアサヒ。

「……あてにしろよ。友達を君のすぐ、そばに」

(いつも俺がいる)

 珍しく自然の笑顔に震える自分の手を触れながら。

「俺よりも、すごいヤツはたくさんいるよね」

 (そっか、ほっとしたんだ。緊張したんだ。)

 ウーウーウーウー

「だけど俺よりも君のこと、気にかける奴はいないよ」

 響き渡るサイレンはもう遠く。

「時が流れても、変わらないモノ」

 僕の見送る背中を後に……

「それは、俺たちの絆」

 見送られる背中にそっと音のなる方へ小指を立てて『ゆびきりげんまん』

 最後にワンフレーズ。

「君はともだち」

 

 ……いつも俺が居る。



 ……

 ガタガタガタ!!!!

 ……

「ぶぁーおっこいっっしょ!! 寝かぶっとったー」

 (地震か!?)

 今いる場所、相談室に戻る相談員のアサヒ。


「何処の言葉? 方言ですか??」

 小鳥遊さんが、相談室で声かける。

「え? 方言熊本? ……ほへ?……えーと」

 夢の続きがくしゃみで飛んだ。

 アサヒはモヤモヤとしなが考える。

 (あーなんだけ、えーと)


 ……

『君のそばに』

 小鳥遊と声が揃う。


 小鳥遊先生が言う。

「トイ・ストーリーですよね? あってます?」


 驚くアサヒ。

「は?、」

 ……

 (やばいやばい寝言言ってたんだよな。きっと)

 アサヒはそう思う。

「あ、そ……」

 小鳥遊さんは首をフリフリとアサヒの話を遮り。

 ですよねと続け。

 

 アサヒはアサヒで机の前の二枚の絵に気づく。

 (うわ、これ、どっちも救急車?? 寝言マジ言ってたわー恥ずかしい。誰だろう)


 ちらっと


 小鳥遊先生を覗いて……聞こうとした『絵の事』

「こ……これ」


 タイミングよく相談室の扉が叩かれ人が入ってくる。

 ――コンコン

 ガチャっ

「失礼します」

 

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道の小石に僕らはつまずく。 おのんのんの @keysin

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