第2話
「お前らなぁ…」
「すんません」
「すみませんでした…」
入学式を終えた先生やクラスメイトがやって来たのは、唯と和久井が教室の前で待って15分ほど後になってからだった。
それから担任の朝倉(あさくら)に別室に連れていかれ、注意をされている、という状況である。
「まぁ何事も無くてよかったよ。和久井のお母さんと吉村は…お姉さんが来てくれてるんだっけ?」
「あ、はい…」
「えらく心配してたぞ。後で謝っておけよ」
「はい…」
「和久井んところは…」
「あーうちは多分大丈夫っす。後でしこたま怒られるだけなんで」
「そ、そうか…。ま、とりあえず教室に戻ろうか」
(なんで初日からこんな…。胃が痛い…)
朝倉は深いため息をついた。
***
朝倉先生に教室に入るよう指示をされた2人は、前後の席だった。
「よろしくね和久井くん」
「あぁ」
「お待たせ~。改めて、1年2組の担任になる朝倉博(ひろし)だ。よろしくな。さて、あとは皆軽く自己紹介をしようか」
順番にクラスメイトが自己紹介をしていく。
「じゃあ次吉村。吉村は前に来てくれ」
「は、はい!」
唯は席を立つ。
そんな唯を、和久井はじーっと見つめていた。
(前?なんでこいつだけ…)
その理由はすぐに分かった。
「吉村唯です。俺には、睡眠障害という病気があります。症状は人によって様々なんですけど、俺の場合は、夜にあまり眠れなくて、その代わり日中に眠くなります。不眠症っていうのかな、その方が分かりやすいかもしれません」
(不眠症…)
唯が話を続ける。
「なので、授業中に眠っている事もあるかもしれません。その時は起こしてもらっても起きないかもしれません。だけど、クラスには極力迷惑をかけないようにします。テストもちゃんと受けますし、成績は絶対下位にはしません。それでも、と受け入れてくれたこの学校に、俺は感謝しています。どうか、よろしくお願いします」
唯が深く頭を下げると、続けて朝倉が話し始めた。
「吉村は自分が迷惑を掛けてしまうからみんなの前で話をしたい、と言ったんだ。先生達も初めは戸惑ったが、入試の成績は良かったし、まあテストさえどうにかなればいいかと思ってな。だからクラスのみんな、そして本日お越し頂いているご家族の皆様、どうかご理解とご協力をお願いします」
「…私からも、お願いします」
唯の姉が、クラスメイトの親達の前で頭を下げる。
「どうぞよろしくお願いします!」
唯が声を上げると、和久井が手を叩き、拍手をした。
その後を追いかけるように他のクラスメイトや親達が続いて拍手をした。
「良かったな、吉村」
「はい!」
「席に戻っていいぞ。よし次は…」
(良かった。あの時みたいに嫌な顔をされなくて…)
唯はホッとした気持ちで席に戻った。
「和久井です。よろしく」
「和久井、名前も」
「………はるかです。春に花と書いて春花です。名前いじったらシバきます。以上」
春花が不機嫌そうに席に着く。
そんな春花を見て、唯はニコニコと微笑んでいた。
「よろしくね、和久井くん」
「あぁ」
春花の中で、自分の名前を弄らなかった唯の好感度が上がったのは言うまでもなかった。
眠れぬ羊の青い春 ティー @daidai000tt
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