眠れぬ羊の青い春
ティー
第1話
俺だって、きっとお兄ちゃんやお姉ちゃんみたいにいい高校に行けるって思ってた。
『どうしてこんなに成績が悪いの!お姉ちゃんは
…』
『お前のお兄ちゃんはもっと成績が良かったのに』
90点じゃお父さんもお母さんも褒めてくれない。
だから、周りに褒められても、嬉しくなかった。
もっともっと勉強しなきゃ。
なのに、なんで。
***
『唯(ゆい)、お姉ちゃんが学校に行ってくれてるからね、無理しないでね』
「うん、ありがとう、おばあちゃん。おばあちゃんも無理しないでね」
病気で入院している祖母とやり取りをし、電話を切る。
今日は都立春宮(はるみや)高校の入学式。
吉村(よしむら)唯は、深く息を吐いて、最寄り駅に向かい学校への電車に乗った。
「君、この電車はこの駅止まりだからね」
「ん……え…っと」
駅員に起こされ周りを見渡すと、電車には自分一人。
駅員に謝罪をし、電車を降りると、そこは知らない駅だった。
スマホで学校の最寄り駅を調べると、今の駅から少なくとも30分はかかる。
現在時刻は8時45分。
入学式まであと15分。
「や、やっちゃった…!」
姉に謝罪の連絡を送る余裕もなく、学校についたのは、9時30分。
「ど、どうしよう…」
校門は固く閉ざされており、よじ登るしか方法はないと思った唯は、160センチという小さな体で何とか校門をよじ登り、体育館を探す。
すると、桜の木の下に座っている学生を見つけた。
(先輩、かな?)
彼に近づき、話しかけようとした。
しかしよく見ると、入学式の時に配られるワッペンを付けており、自分と同学年だと知る。
「ん…」
「わ…!」
「んー…、誰だお前」
女顔の唯と同じ男だとは思えない、鼻筋がシュッとした顔立ちに、シャープな輪郭、切れ長な目に低い声。
こういう人が人気になるんだろう、と唯は思った。
「あ、あの…」
「何だ?」
「え、えと…お、俺と同じ、入学生だよね…?」
「お前もなの?花、付けてないけど」
唯は自分の事を話すのを躊躇い、嘘をついた。
「あーえっと、寝坊して…、校門を登って…」
「何だそれ」
「体育館の場所、知ってますか…?」
「知らね」
彼はそっぽを向き、再び眠りにつこうとする。
(どうしよう、俺、また…)
自分の失敗で怒られる、と唯は思い、涙目になる。
「………」
「そう、ですよね。ごめんなさい。自分で探し…」
彼の元を離れようとした時、ぐいっと腕を引っ張られる。
「クラス、知ってんの?」
「えっ」
「あっちに掲示されてたから、見に行くぞ」
「いいの…?」
「今更体育館行ったって仕方ないだろ。どうせ怒られるんだし」
「ありがとう、ございます」
彼に手を引かれ、掲示板の元に向かう。
「俺、和久井(わくい)」
「あ、俺は、吉村です」
「吉村ね…あ、同じクラスじゃん」
「本当だ…」
和久井と名乗った彼は、唯の名前を指さす。
その後ろには、彼の名前が載っていた。
「和久井、ええと…」
「君たち入学式は?」
「「あ」」
たまたま近くを通りかかった女性教師に声をかけられ、2人の声が重なる。
「すんません、寝坊しました」
「まあ、2人とも?」
「うす」
「うーん、もう入学式も終わりそうだし…、教室まで案内してあげるわ」
女性教師の後ろをついて行き、教室の前に到着した。
「先生には私から行っておくからね。遅刻はダメよ、気をつけてね」
「すんません」
「すみませんでした」
「優しい先生で良かったな」
「うん。ありがとう、和久井くん」
「別に…」
地べたに座り込む和久井の横に、唯も座る。
「和久井くん、優しいね…ふぁ…」
「眠いのか?」
「ん…ちょっと、だけ…」
(ここで寝ちゃったら、次いつ起きれるかわかんない。起きとかなきゃ…)
「ちょっとくらい寝てもいいだろ。入学式いつ終わるか分かんねぇし」
「あり、がとう…」
それから唯は、和久井に起こされるまで眠りについた。
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