第4話 「なるほど。神様転生って奴か。だったら特典くれよ!」
半年後。
「よし、取ってこい! シロ助!」
「ワンワン!」
オレはワーウルフとボールを投げて遊んでいた。馬鹿か? と言われたら馬鹿ですとしか言いようがない。
いや、だって仕方ないじゃん……コイツ強すぎて入り口から全然進めないんだもん……。
毎日通えば顔見知りになるし、ポーション無くなったら帰るオレを見てこれ以上危害を加えないと判断して見逃されたら……ねぇ? ちょっと流石に殺し辛いよね?
そしていつの間にかこうして遊ぶ仲になってしまった。どうしてこうなった? いや、戦いはするよ? 肉体の欠損が起きない程度には手加減されているっぽいけど。
でも助かっている所はある。流石に最高級ポーションを使い過ぎたせいか、オレを溺愛している親父も「いい加減にしろ! 殺すぞ貴様!?」と怒られてしまった。
今は水魔法で治療できる範囲までボコボコにして貰っている。
おかげで当初の予定通りに強くなることができた。ぶっちゃけ今の方が効率が良いかもしれない。主人公ノーデス縛りプレイだと、死ぬ前に戦闘離脱という方法もあるからね。そっちでも経験値が入るけどさらに微々たる物だ。
「ワン」
「あん? どうした」
剣を構えるオレだったが、何故かシロ助は一鳴きして背中を見せて歩き出す。
どうしたんだ一体? そう思って眺めていると立ち止まって振り返ってこちらをジッと見つめて来る。……着いて来いって事か?
オレは周囲の警戒をしながらシロ助に着いて行く。道中他のモンスターに襲われても対処できる様に。
しかしどういう訳かモンスターが現れる事無く、ラストダンジョンの最深部に辿り着いてしまった。うーん。このダンジョンってゲームではモンスターの遭遇率が低いとか、そういうのは無かった筈だが……この辺はゲームとの違いか?
それにしても……。
「此処が決戦の地か」
広い空間に広がる禍々しい神殿に、入り口中央前にある祭壇。まるで生贄を待っているかの様だ。……実際その通りなんだけどね。
しかし……流石に心にグッとくるな。ゲームのラストで見られる光景をこうして生で見られるだなんて。聖地巡礼って奴だ。やば、ちょっと涙が出そう。
「それで、シロ助? オレを此処に連れて来た理由は……あれ?」
ふと気が付くとシロ助が居なくなっていた。どこ行ったんだアイツは。
キョロキョロと周りを見渡してもあの白いモフモフは見当たらない。薄暗い洞窟の中でもアイツの白さは見つけやすいんだが。ほんのりと光っていたし。
「うーん……まぁいいか」
モンスターってのは気まぐれだしな。そのうちひょっこり現れるだろう。
それよりも折角ここまで来れたのだから、決戦の地を見学して回ろう。
「おお……これがあの祭壇か」
『――ついに来たか。我らが使い手が』
魔王を生贄に厄災が復活するヤバイ観光スポットを見ていると、突如脳内に男の声が響く。
なんだ? 異界の神か? いや待て、この状況何処かで見た事がある。
『此方に来たれ。我が使い手よ』
『汝の欲望を解き放て』
『汝の願いを解き放て』
『さすれば究極の力を授けよう』
「うわ、うるさっ」
『うるさ!? ……ごほんっ。こちらだ、ヒュース・カルタルト』
『……貴方には我らの力が必要の筈』
男の声だけではなく、女性の声も響いて頭の中が変な感じだ。
何も知らない人間なら自分がおかしくなったのではないか、と発狂するかもしれない。でもオレ前世で似た事あったんだよな。家に帰って休んでいたら上司の粘着質な言葉が響いたり。割と頻度はあった気がする。
『……えぇ』
『大丈夫なのか?』
なんか脳内の声がドン引きしている気がする。何なら心配されちゃったよ。
というか心の声を聞くんじゃないよ。プライバシーの侵害だぜ?
とにかくオレは声がする方向へと歩き出す。出所は神殿の中だな。ゲームでは背景としてしか映らず、最終決戦が終わると同時に崩壊していたからオレも詳しくない。設定集にも詳細は書かれていなかったし。
しばらく進むと、まるで玉座の間みたいな場所に辿り着いた。
そして部屋の奥には二つの台座があり、そこには……。
「あれは……」
ソレを見た瞬間、オレは大いに混乱した。
何故あの剣たちがこんな所に? いや、あり得ない。
よく見てみようと台座に駆け寄り、突き刺さっている二つの剣をしっかりと見てみる。
……色はそれぞれ違うけど、やっぱりこの形状、デザイン……間違いない。
これは、聖剣と魔剣だ。
だが、それはあり得ない。だって全ての聖剣と魔剣はこの時期には既に所有者が決まり、地上に現れている。
それに目の前にある聖剣と魔剣をオレは知らない。類似している物は知っているが……何なんだこれは。
『これとは随分な言い様だな小僧』
「……また、頭の中で声が」
『貴方も理解している筈よ。自分が選ばれた人間である事が』
――そう、だな。この状況はもはや言い逃れできない。
思えばオレの中にあるゲームの知識との隔離は、これまでにも何度かあった。致命的ではなかったし、現実に照らし合わせた結果の変化だと飲み込んで誤差だと思っていた。
だからこそ、目の前にある聖剣と魔剣の存在を認められない……いや、認めたくないと思ってしまっている。
だが、オレが知っている知識はこの世界からすれば上っ面だけのごく一部なのかもしれない。知らない事の方が多いのだろう。
『ヒュース・カルタルト。汝に問う』
無骨な男の声が脳内に響く。
『汝の欲望はなんだ。我が魔の刃で全てを手に入れる力を授けよう』
その言葉は、原作で魔剣を手に入れたキャラ達が……ボスである魔王が紡がれた呪いだった。
『ヒュース・カルタルト。汝に問う』
こちらを落ち着かせる女性の声が脳内に響く。
『汝の願いを聞きましょう。我が聖なる剣で全てを叶える力を授けましょう』
その言葉は、原作で聖剣に選ばれたキャラ達が……主人公である勇者紡がれた祝福だった。
『汝は既に理解している』
『汝は既に受け入れている』
『さぁ、手に取れ。世界を変える煌めきを』
『さぁ手に取ってください。世界を救う輝きを』
どうしてこうなったんだ――そう思いながらも、オレは無意識に手に取ってしまった二つの剣を。聖剣を。魔剣を。
本来なら、主人公とボスたちが出会う筈だった力の根源に。
『今ここに契約は結ばれた』
『その命尽きるまで、我らは一心同体』
呆然と見つめていると、聖剣と魔剣と契約を結んだ事により思考がクリアになっていき――ふと気が付いた。
『我は闇の魔剣のアランだ。せいぜい長生きをしろよ小僧』
『私は光の聖剣のテレシア。ふふふ。よろしくねマスター』
彼らの名乗りを聞いて、今湧いた疑念は確信に変わった。
『と言っても、汝はどうやら我らの事を知っているようだがな』
『ええ、そうね。聖剣と魔剣を見ても動じなかったし、この知識……もしかしたらこの子なら』
『ふん。この神殿奥深く居ても尚感じた魔力は伊達ではない、という事か』
『そして迷いなくこの場に来た、と。ヒュース・カルタルト。私、貴方の事すごく興味があるわ』
脳内で男女の声が騒がしく話し続けて来る。ああ、確か原作でもこういう事があったらしいな。聖剣と魔剣にはそれぞれ1000年前の人間の人格が投影されていて、持ち主を補助する役割がある。
原作主人公の持つ聖剣は勇者の人格が投影されていて、クソ真面目な性格でいつも主人公を叱咤していたっけ。そのやり取りもまたオレは好きだったんだけど。
――で、さぁ。
「お前たちに聞きたい事がある」
『む。なんだ小僧』
『何でも聞きなさい』
「おたくら、誰?」
『あれだけ意味深な思考しておいて、我らの事知らないのか!?!?』
『私たちの事知っている風じゃなかった!?!?』
いや、ビックリしているけどオレだってビックリしてんだよ!
だって――光の聖剣と闇の魔剣なんてもの、原作には無かったんだから。
〈作者コメント〉
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踏み台悪役貴族に転生したので、最強になって壁になってやる!〜しっかり乗り越えて貰うぞ!……おや?原作主人公の様子が……?〜 カンさん @kan_san102
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