お弁当トレーニングで付き合って
まさつき
片思いの女子に餌付けされて
高校で一番の美少女、
なんだ? ついに俺に告白か?
「
「お弁当……なんで? 何するの?」
「気になる人がいるんだあ。私その人に、手作りのお弁当食べて欲しくて……」
視界から、色が抜け落ちた。
自慢じゃないが、顔にも中身にも、自信がある。
言い寄る女子は数知れずだが、全部断ってきた。
俺には、好きな子がいるんだ。
今、目の前に。
弁当箱を手にした陽葵が、俺の片思いの相手。
なのに、なんで……クソっ!
イケメンを自認する俺だけど、本当に好きな子の前ではからっきしだった。
とはいえ、ずっと好きだった子の頼みじゃ、断ることなんて出来っこない。
「わかったよ……でもとりあえず、一口味見ぐらいさせてよ」
「いいよお」と、陽葵は持ってきた弁当箱から唐揚げを箸で摘まみ上げた。
俺の大好物だ。すっごく、美味そうな匂い。
唐揚げの香りは女の子のいい匂いと混ざり合い、俺の気持ちをかき乱した。
「はい、あーんして♡」
え? ちょっと、食べさせてく……んんぐっ!
ごくっ……!!
「美味いっ! なんだよ、練習なんて必要ないじゃんっ」
俺史上最高最強に美味な唐揚げは、たったひと粒で俺の胃袋を幸福で満たしていた。素直に、感動した。頼まれなくたって、毎日食べたいくらいだった。
「ありがと。でもまだ納得できないし、しばらく付き合ってくれる?」
俺は二つ返事で、陽葵の弁当トレに付き合うことを承知した。
それから毎日、約3ヶ月。
イケメンだった俺はすっかり太ってしまい、見る影もなくデブっていた。
言い寄る女は日々減って、今じゃ相手をしてくれるのは俺を餌付けする陽葵ただ一人になった。
その陽葵が、俺に向けて、残酷な言葉を口にした。
「今日でね、トレーニングはおしまい」
「そんな……やだよ、俺、イやだっ」
「どうして?」
「俺、陽葵のこと、好きだから……ずっと弁当作って欲しいから」
陽葵の指が、俺の顔目掛けて伸びてきた。
ぷにっ……え?
「ぷくぷくしてかわいーっ♡」
泣きそうな俺の膨れた頬を、陽葵はニコニコ笑いながらつついている。
蕩けた目をして、世界で一番の美少女が俺の瞳を見つめていた。
「私ね、太った人が好きなんだあ。大内君て、そこだけが私好みじゃなくて……でもこれで、私の理想の彼氏になったね♡」
俺は身も心も胃袋も、陽葵に掴まれたのだった。
お弁当トレーニングで付き合って まさつき @masatsuki
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