第9話 お風呂に行ってみよう!
「やっぱり。 アナタもそうなのね……誰か親しい人が神隠しに?」
「うぇ!? あぁ、いや……その……」
意味深に呟く少女にタヅナは言葉に詰まってしまう。 少女の言う神隠し事件がアヤカが探している天乃ショウコの事だとは限らない。 しかし、フェアリーテイル女学院から少し離れたとはいえ同じ地域ではある。 このダンジョンにフェアリーテイルの生徒がいてもおかしくはない。
そして現在、日本の年間行方不明者数は約8万人もいるらしいし、この学園島内に限った話しでも年間数百人の失踪者が出ている。 この島の特性上、多くがダンジョン内での失踪なので単純に攻略が失敗してモンスターの腹の中に収まってしまったのだろうと推測されている。
つまり、ダンジョンのあるこの学園島では失踪者はさして珍しくは無いけれど、わざわざ神隠しなんて言うからにはダンジョンの攻略に失敗したのとは違うのだろう。
タヅナは当初、アヤカから聞かされた天乃ショウコの行方不明の話も良くあるダンジョン内の失踪だと考えたのだが、アヤカ曰く『ショウコに限ってはダンジョンの攻略に失敗するなんて事は絶対にない』との事だった。
その信頼が類稀な戦闘力によるものなのか慎重さによるものなのか、そもそもダンジョンに潜らないサポート班だったからなのかタヅナは聞きそびれてしまったのだが。
「神隠しにあった
「いやぁ……オレは人に頼まれて? ってか神隠しにあった人達って、1人じゃないのか?」
「頼まれて……ああ、なるほどね。 アナタは失踪者の家族なんかに依頼されたって事なのね。 そうよ、アナタの依頼人が誰を探しているのかは知らないけど、私が今まで調べた所、この神隠し事件の被害者は軽く10人は超えているわ。 勿論、ダンジョンの攻略失敗の失踪者とは別よ」
「ふ〜ん。 なぁ、ちょっと疑問なんだけどダンジョン攻略失敗の失踪者と神隠しはどうやって区別してんだ?」
タヅナの疑問に水色の髪を頭頂部あたりで結び直していた少女は大きな瞳でタヅナを見つめながら答える。
「そんなの簡単よ。 だって神隠しに遭ったのは全員、サポート科の生徒よ。 ダンジョンなんて研修でもなきゃ潜ったりしないわ。 だからこのダンジョンに出入りしてるって情報には少し疑問はあったのよね……」
「ふーん。 でもそれだけじゃあ確証はないんじゃないか? サポート科だってダンジョンに潜る人は潜るだろう?」
サポート科とは、主にダンジョンに潜り魔晶石やダンジョン由来の資源、オーパーツやモンスターの魔石などを採取、採掘してくる探索者達をサポートする為の人員である。
その仕事は装備の製作や整備、治療、マップの作成や攻略情報のまとめ等、多岐に渡る。
そのほとんどがダンジョンの攻略に適さない能力の為にサポート科に属しているので、滅多な事ではダンジョンに潜ったりしないのである。
ただし、何にでも例外はありタヅナが言うようにサポート科でありながら自らダンジョンに潜り材料を調達してくる猛者もいたりする。
「そうね。 中にはダンジョンに潜る人もいるだろうけど、私が調べた人達は自らダンジョンに潜るような物好きではなかったそうよ。 それと……」
少女は立ち上がるとスマホを片手にタヅナへと近づいてくる。
「私はミヅキ、
「えっ、あぁ……はい」
言われるがままタヅナはミヅキと連絡先交換をしていく。
「名前は?」
「あ、えっとオレは、や……朧夜……タヅナ」
「ロウヤ? 珍しい名前ね」
「ハハッ……オレもそう思う」
厨二病を患った真津戸アヤカに半ば強制的に決められた名前であり、タヅナ自身はまだちょっと名乗るのに恥ずかしかったりする。
「私はまた色々調べてみるわ。 何か分かったら教えるからアナタも何か分かったら私に教えてね」
そう言って微笑むミヅキの透明感のある笑顔にタヅナはドキリとしてしまう。
思わずナチュラルな正統派な美少女はこんな感じなんだなぁと考えてしまう。
タヅナもアヤカの薬により、そんじょそこらの美少女よりも美少女になったけれど、あまりに整いすぎているため鏡を見るたびに作り物のような感想を覚えてしまう。
それにしても、とミヅキは続ける。
「アナタってめちゃくちゃ美人なのに俺っ子なのね?」
そう言ってキャップを深く被るタヅナを大きな瞳で下から覗き込んでくる。
その姿に思わずドキリとして顔を赤くさせてしまう。
◾️
フェアリーテイル女学院の寮へと戻ってきたタヅナは部屋へ入るとベッドへと倒れ込み身体を休ませる。
「ふぅ……意外と戦えるもんだな。 アヤカさんとの訓練に比べたらモンスターと戦うほうが楽だな……」
初のレベル2ダンジョンの攻略を振り返ってみて意外に戦闘力がついている事を実感する。
そして真津戸アヤカとの戦闘訓練を思い出し、アレに比べたらレベル2のダンジョンはとても
探索者は18歳を超えると、ほとんどの人が能力の衰退が始まる。 使えなくなる訳ではないがどんどんと能力の出力は下がり20歳頃には発現が困難になってくる。
それなのに自称19歳の真津戸アヤカは驚くほどに強かった。 タヅナは当初、様々な発明をしている事からサポート科に属していたのかと考えていたが、その身体能力はとても高く、探索者としても上位の実力であった。
タヅナは結局アヤカの能力を1度も見る事はなかった。 ただ能力の詳細だけは聞いていたが。
能力を使わずともタヅナの糸による結界を躱し、こじ開け、タヅナのバールによる攻撃を掴み取り的確に攻撃を当ててくる。
サディスティックな笑みを浮かべながら殴打してくるアヤカはタヅナにしっかりとトラウマを植え付けていた。
明らかにレベル4のダンジョンボスであるキマイラよりも強い真津戸アヤカですらも最大攻略難度はレベル7のダンジョンと言っていた。
そして人類の最大攻略難度はレベル8。 レベル9以上のダンジョンはまだ誰も攻略した事がなかったりする。
レベル3やレベル4が探索者のボリュームゾーンらしく、レベル5以上はその難易度が跳ね上がるようだ。
「オレもいつかダンジョン攻略の最前線とか行けるのかなぁ……っと、風呂入らなきゃ!」
ベッドの横になって考え事をしながら微睡んでいたタヅナは寝る前に風呂に入っておこうと飛び起きる。
フェアリーテイル女学院の寮にある大浴場は特に入浴時間に決まりは無く、24時間開放されており、いつでも入れるようになっている。
時刻は丁度日付が変わったあたりだ。 意外とダンジョンの攻略に時間がかかったらしい。
ミヅキと話したり、少し離れたダンジョンだったため移動に時間がかかったせいもあるかもしれない。
「今からなら他に入っている人もいないかな……」
今日は土曜日、タヅナは週明けの月曜日から授業に出るため、未だに寮を案内してくれた寮監の教師以外には転入の挨拶もしていない状態だ。
そんな中、いきなり裸の付き合いは避けたい所だった。
御伽の学院 〜TSから始まる美少女だらけの学院生活!〜 猫そぼろ @IITU
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